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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Klute: コールガール
監督   スタンリー・キューブリック
主演 マシュー・モディーン
アダム・ボールドウィン
ヴィンセント・ドノフリオ
音楽 アビゲイル・ミード
Killing Fields, The

 サウス・カロライナ州、パリス・アイランド。
 僕たちアメリカ海兵隊三〇九二小隊の新兵たちは、ドタマを丸ボウズにされた後、訓練教官ハートマン軍曹からいきなり罵詈雑言の洗礼を浴びせられた。
 そう、地獄の戦火のベトナムに行くために…

 

 

 「貴様らはウジ虫だ!皆、価値がない!」
 「アカの手先のおフェラ豚めが!」
 「泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
 「隠れてマスでもかいてみろ!アタマ切り取ってケツの頭に押し込んでやるからな!
(by SCARFACE!) きっちり見張るからな!」
 「目玉えぐって頭ガイ骨でファックしてやる!」

 

 といった罵詈雑言のモーレツしごき教室が始まったのだ!
 サー!イエス!サー!
 そして僕らの名前は剥ぎ取られ、教官の思いつきの素晴らしいあだ名を頂いた。
 テキサスのカッペはカウボーイ、黒人は白雪丸(スノーボール)、ふざけた僕はジョーカー(お笑い野郎)、そしてローレンスという貴族のような名前の奴は「何?ローレンスだと!アラビアのロレンスか貴様は?」といきなり鉄拳制裁まで頂戴した。
 「お前はグズでノロマな薄笑いデブだ!お前はほほえみデブだ!」
 とこんな具合で毎日毎日、地獄の訓練が始まった!
 その中でもローレンス=ほほえみデブは毎日ドジの連続で教官の集中砲火を浴び、ベトナムに行く前にオダブツになりそうだった。
 しまいにはデブのドジのお陰で僕たちもトバッチリでシゴかれてしまい、アタマに来た僕たち小隊の全員で特別に真夜中にデブにお礼参りをしてやった。
 するとデブはまるで人が変わってしまい、卒業式の最後の夜、まるで「シャイニング」のジャック・ニコルソンのようになっちまい、ついには教官を射殺!
 そして自らもライフルで頭をフッ飛ばし命を絶ってしまった…なんてこった!

 

 その後僕はベトナムのダナン海兵隊基地に配属された。
 軍の報道部に配属されたが、毎日、お偉方の握手の写真ばかり撮らされてフラストレーションの日々を送っていた。
 そんな時、べトコンがテト休日の停戦を破り、真夜中に奇襲攻撃してきやがった。
 いわゆるテト攻勢だ。
 僕はマシンガンを撃ちまくり、異様な興奮を覚えた…!

 
 その後そのままのテンションで上官にお得意のギャグをカマしたら、一発で激戦のフバイへ飛ばされた
 …まあいいや。
 ヘルメットにはBORN TO KILL(殺すために生まれた!生来必殺)、胸にピース・バッジで武装してるからな。
 死なないさ。
 そこで訓練校の同期、カウボーイと再会し、ヤツの小隊に同行することとなる僕。
 戦火の真っ只中のフエに入った途端、べトコンの銃弾の洗礼が待っていた。
 狂ったように反撃するとまたまた異様な興奮状態に…!
 
 

 なんとか反撃に成功して先を進むとアメリカのテレビ局が小隊のインタビューを撮っていた。
 皆、アメリカがどうの政治がどうとかマトモな返答してやがるから、僕は
 「町内で最初に殺害確認戦果をあげる子になりたかった!戦地でウィラード大尉とキルゴア中佐と握手してもらうんだ!」
 とカマしてやった。
 その後、本部の命令でカウボーイ以下の小隊で先へ進むこととなったが、小隊長がしかけ爆弾で吹き飛ばされた。
 カウボーイが代わりに指揮を執るが、僕たちは道に迷っちまった。
 だからカッペはよう…と思ったとたん、いきなり何処からか銃弾が飛んできて狙撃されてしまった。
 アカン、これは…!
 体制を整える間もなく二人の兵士がなぶり殺し…絶体絶命!
 いや、俺たちは不死身のアメリカ海兵隊だ!
 ベトナムの田舎者とは違うんだよ!
 だが敵のスナイパーの腕はスゴ腕やないの…まるでゴルゴ13ってか?と与太を飛ばす間にカウボーイも狙撃されてしまった。
 怒りに震える僕たちは「お礼参りしようぜ!海兵隊よ!」と駆け出して何とかスナイパーの背後に回った。
 僕がスナイパーを仕留めたる!と撃とうとするが、銃の故障…!
 絶体絶命で振り返るスナイパー。
 どんだけムサイおっちゃんやねん、と思ったスナイパーの正体は…
 …三つ編み姿の中学生の女のコやった…
 クラスの地味なイジメられっコみたいやった…
 そんなコが凄腕のスナイパーやったとは…

 

 

 衝撃の事実に意気消沈でお通夜みたいに沈む小隊。
 僕は無言で瀕死の彼女にトドメを刺した。
 …でもなんかイヤな気分だったのは確かだ…
 それでも僕たちは戦火に燃える地をミッキー・マウス・クラブ・ソングを歌いながら先を進んだ。
 そう、僕はもう直ぐ除隊するんだ。
 五体満足で!
 帰還すると潮吹きメリージェーンの歓迎を受けるんだい!
 そうしたら湿っぽい気分を吹き飛んだ。
 Yes! 僕はもう恐れはしない!やったるで!

 

 1987年僕たちは異様に騒ぎ立てていたっけ。
 それはつまり「いったいスタンリー・キューブリック様の新作の音楽は誰が担当するのか?」についてだった。
 そんなもんIMDBでチャっチャと検索!といいたいがそんなシャレたものは、当時は存在しなかったんですよ(そもそもインターネット自体が存在しとらん)。
 だから個々で
  「ウェンディ・カルロス?それともペンデレッキらの現代音楽の連発?それともベトナムものだから当時のヒットソング?」
 と僕たちは中森明菜、キョンキョンのナイト・ウェアを想像するよりもキューブリック様の新作の音楽の方に心を奪われていました。

ヴィヴィアン嬢幼少のみぎり
 

 その後ようやくポスターが発表されましたが音楽担当のクレジットはなく、僕たちはまず落胆させれましたが(明菜のファースト写真集の水着姿を見たときの気分)、ようやく音楽担当者がABIGAIL MEADと知る時が来ると「あ、あびげいる…?何処の馬の骨やねん?」と皆、思いましたよ。

 
メイキング撮影中のヴィヴィアン
 

 しかし後日、正体不明の作曲者がなんとキューブリック様の末娘のヴィヴィアン嬢様と知った時の驚きは、石原真理子がアッチの世界へ旅立った時以上の衝撃でもありましたっけ。
 それにあの冷血モノリス人間のキューブリック様も、実は情にもろい娘には甘いオヤジと分かった時は、嬉しく思いましたよ。
  ヴィヴィアン嬢は、父の為にペンネームで挑み、コンピューターのフェアライト、CM1・シンセサイザーで作曲・演奏して、とても女性とは思えないようなドライで冷たい…まるでホラー映画のようなスコアで父を感激させました。
 そう、ちょうどウェンディ・カルロスの「シャイニング」のような。

 

 日本の和太鼓も取り入れ、僅かに東洋のテイストも感じさせますが、あくまでも冷たく無感情なスコアが、底冷えさせて無感地獄の戦場をさらに冷たくさせています。
 そしてキューブリック様は、
 「テト攻勢は1968年だった。そこで当時のビルボードのヒット曲を調べ上げた。そこで使える曲を選んだ。」
  と語るようにナンシー・シナトラディキシー・カップスらのポップ、トラッシュメンサム・ザ・シャム・アンド・ファラオズらのサーフ・ミュージック、そしてローリング・ストーンズらのナンバーもただの時代色を出すためのBGMではなく大胆にサウンドトラックに使用しています。

父スタンリーとロケ現場にて
 
 

 先に公開されたオリヴァー・ストーン「プラトーン」ではオーケストラを使ったジョルジュ・ドルリューとは異なり、シンセサイザーでヴェトナムを描写するスタイルは、フランシス・コッポラ「地獄の黙示録」と同じでニヤリともしました。
 そしてエンド・タイトルがローリング・ストーンズの「黒くぬれ!」とは!
 キューブリック様の作品にミック・ジャガーのヴォーカルが重なるなんて!
 驚異的でしたね。
 驚きましたね。
 しかもラストのクレジットに流すなんてやっぱキューブリック様は、冷血漢のモノリス人間と痛感しましたよ。

 今、振り返るとキューブリック様のサウンド・トラック・アルバムは、「スパルタカス」('60)から遺作の「アイズ・ワイド・シャット」('99)まで必ずリリースされていました。
 即ち「ロリータ」('62)、「博士の異常な愛情」('64)(1曲のみだがこれは快挙!)、「2001年宇宙の旅」('68)、「時計じかけのオレンジ」(71)、「バリー・リンドン」('75)、「シャイニング」('80)、そして「フルメタル・ジャケット」とタイトルを並べるだけでもお腹一杯!の相撲力士のようでごわす。
 全ての音楽、レコードそしてオーディオにも高い知識を誇るキューブリック様。
 「バリー・リンドン」の音楽を準備している時は、エンニオ・モリコーネのサウンド・トラック・アルバムを片っ端からアボッツ・ミードの自宅で聴きまくっていた!なんて話もあります。
 僕たちは「時計じかけのオレンジ」のあの個性的なレコード・ショップの品揃えには、ワクワクしたもんです。

 
US盤LP

 「フルメタル・ジャケット」のアルバムは、「時計じかけのオレンジ」から一貫してワーナー・ブラザースよりリリースされました。
 アルバム・プロデュースのクレジットはありませんがキューブリック様自身でしょう。
 自作のポスター・デザインまでブーブーと口を挟む、小姑よりもウルサイ、キューブリック様のことですから。

 LPとCDとリリースされたアルバムは、LP仕様で選曲されていました。
 Aサイドは既製のロック、ポップ・ナンバーで構成され、Bサイドはアビゲイル・ミードのオリジナル・スコアを収録しております。

 
日本盤LP
裏ジャケット(世界共通仕様)
 

 Aサイドのトップを飾る「FULL METAL JACKET」は例の劇中の海兵隊の掛け声・ソングをギター、リズム・セクションをリミックスしてまるで海兵隊・ラップとなっています(なおハートマンの禁句ヴァージョンではありません)。
 このAサイドのソング・ナンバーをアルバムで聴くとちゃんとこれらの歌のリズムで映像を編集しているのが分かります。
 恐らくキューブリック様、何千回と聴いたのでしょう。
 Chris Kenner「I LIKE IT LIKE THAT」は劇中、使用されておりませんが、当初のエンド・タイトル用だったのでしょうか。
 そして「ストーリーを締めくくるのならあの歌を使うさ。」とキューブリック様が認めたローリング・ストーンズの「黒くぬれ!」が未収録なのが残念無念。
 レーベルの権利の壁は当時のキューブリック様の力を持ってしても叶わなかったのでした。

12"シングル (ESKIMO PUSSY MIX)
 

 Bサイドは予告編の曲「TRANSITTION」で幕開け。
 そしてあの恐ろしい曲「SNIPER」がラストを飾ります。
 特にベトナムのフエの瓦礫の戦場に冷たく流れるミード嬢のスコアは、冷たくそして哀しい…

 そんなアルバムは世界中ポピュラーなリリースとなりましたが、キューブリック様の住むイギリスのみ特別リリースとしてアルバムのピクチャー・ディスク(表はヘルメット、裏はハートマンとほほえみデブ!)が存在しており、さらにあの海兵隊・ラップを「I WANNA BE YOUR DRILL INSTRUCTOR」とタイトルを変えてESKIMO PUSSY MIX!のリミックス・ヴァージョンで12インチ、7インチ・アナログでリリース。
 イギリスのチャートに余裕でランク・インしてヒットしたのでハートマンとほほえみデブも浮かばれたことでしょう

 
7"シングル
US盤CD
 

 本当にキューブリック作品のサウンド・トラック・アルバムを堪能するのは、一つの体験でしたね。
 もうあの新しい興奮が、味わえないのは悲しい事です。
 今でも「フルメタル・ジャケット」のアルバムを初めて聴いた時のあの異様な興奮は、忘れられません。

 「うひゃひゃゃ!」とほほえみデブが、ドジってハートマンに罵詈雑言を浴びてシゴかれるシーンで笑い転げる心無き観客
 決まって彼らは、カップルでデートでこの映画を観に来ていた。
 …観る映画を間違えてないか…
 また、「この肉布団が!セイウチのケツにアタマ......おっ死ね!」とハートマンの万華鏡のような暴言の華麗さに涙を流して笑い転げる、OLのねえちゃん。
 …おい、マイケル・J・フォックスの映画と勘違いしてないか?

 

 どうせ笑い転げる心無き観客は、「プラトーン」を既に鑑賞して「戦争はよくないんだよ!ラブ&ピース!イェイ!」と安っぽい感傷を味わってそんな気分に浸りたくて「フルメタル・ジャケット」を観にきたんでしょうか。
 でもキューブリック問屋はそうは卸させなかった。
 ほほえみデブがリンチを受けて豹変する辺りで場内は静まり返り、遂に「シャイング」状態でハートマンを射殺すると息を呑み、ライフルを自身の口に当てた瞬間、「やめろー!」と叫ぶ。
 勿論、OLねえちゃんも同様。
 あの笑い転げてたのは一体、なんだったのだ?

 

 そして後半のべトナム・シーンでは、全くの無音状態。
 スナイパーの正体が明かされる時でも皆、「あっ!女!?」と驚く。
 時間が経過するにつれ観客の期待を次から次へと裏切り、神経を逆なでしていくキューブリック様の冷血な演出。
 「プラトーン」のような「貧しい子が戦場に駆り出されるなんて不公平だ!」と自ら志願してベトナムに参戦する大学生の主人公と全く異なる「観客が感情移入出来ない」主人公のジョーカー。
 前半ではほほえみデブを裏切り、ベトナムでは上官をコケにしてなんとか戦場を駆け抜けては、自ら殺人者に変貌していく。

 
 
 他の登場人物も全く無個性で登場しては死んでいく。
 そこには悲しいといった人間的な感情は、全く感じられない。
 キューブリック様の視点は、ただもの言わぬモノリスのように空高くからジーっと無言で見つめているだけ。
 そして主人公のジョーカーは、多くの兵士と共に合唱して戦場の暗闇に姿を消してしまう。

 

 「フルメタル・ジャケット」は邪悪なことをやらかしても、そんな自分を許して生きていけることに気がついた兵士の物語…だなんてスタンリー・キューブリック様、冷たすぎますよ…