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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Klute: コールガール
監督   ウィリアム・フリードキン
主演 ウィリアム・L・ピーターセン
ウィレム・デフォー
ジョン・パンコウ
音楽(作曲・演奏)

ワン・チャン

Killing Fields, The
 なぜL.A.なんだ!
 楽園にだって逃避できるのに、俺は何かに押さえつけられて逃げ出せない。
 そう、L.A.で生きて死ぬ為に…

 『天使たちの街、楽園のような街L.A.』なんてのは旅行会社の薄汚れたキャッチ・コピーだ。
 ここは天使の街なんかじゃない。
 大都会のヒートと薄汚れたスモッグの中でうごめく犯罪者、悪党どもの街。

 

 

 そんな神さえも逃げ出す街で、ある日一人の定年前の財務省捜査官が頭をブチ抜かれて殺された。
 無残にもゴミ箱に棄てられた遺体を発見したのは、相棒の捜査官リチャード・チャンス
 偽札作りの大物、エリック・マスターズを追っていた相棒を惨殺したのは、そのマスターズ本人だった。
 その時、チャンスは心に誓う。
 「ヤツを必ず挙げてやる。その為には法律なんてクソ喰らえだ!

 

 新たな相棒ジョン・ブコヴィッチと共にL.A.の腐敗と退廃の犯罪迷路を泳ぎ出した二人。
 手始めに空港で偽札を所持していた男カール・コディを締め上げると、この男が偽札の運び屋だと突き止めた。
 この男の背後には、偽札を捌く悪徳弁護士ワックスマンも居た。
 そして奴らの背後に居るマスターズに接触するチャンス。
 二人の捜査官は実業家と偽り、マスターズに偽札の製作を依頼した。
 前金は3万ドル
 しかし上司は1万ドルしか用意出来ない!とチャンスの無謀な捜査に一切協力しなかった

 
 

 そこでチャンスは、「もう法なんか関係ねえ!」と囲っている女情報屋のストリッパーの女・ビアンカから聞き出した、ダイヤの密売屋から大金を奪うことにした。
 この悪党まがいの方法に反対するブコヴィッチだったが、渋々チャンスに従った。
 ところが突然謎の男たちに銃撃され、金を持っていた中国人のバイヤーは死亡。
 なんとか大金5万ドルを奪う事に成功、しかしその後も執拗な追撃受けるが辛くも逃げ切る。
 だがバイヤーは実はFBIの覆面捜査官であり追ってきたのもFBIだと知って驚く二人。
 「…もう引き返せねえ…」

 

 気弱なブコヴィッチは自分達の違法行為がバレるのを恐れ出し、「なあ、上司に全て話そう。」とチャンスを説得するが彼にはもはや聞く耳を持たなかった。
 FBIから大金を奪った謎の二人組の捜査も始まり、マスターズとの取引の日も迫ってきた。

 「…俺のまわりに柵が降りて来たみたいだ。逃げ出せない。逃げ出せないんだ…。そう、L.A.で生きてきて死ぬ為に…」

 
 

 

 遂に来たマスターズとの取引の夜。
 取引は無事終わり、チャンスは遂に自分の身分をマスターズに明かした。
 が、その時予想もしない事が起こり、やはりL.A.は天使たちの街ではなかった!という修羅場と化す悪夢の夜となってしまう。
 彼らは To Live and Die in L.A...

 独特の硬派なドキュメンタリー・タッチのリアリズム主義監督ウィリアム・フリードキンは、音楽に対する感覚は鋭く、決して妥協はしない。
 ジャズ・トランペッターのドン・エリスを起用した『フレンチ・コネクション』('71)のアヴァンギャルドなジャズに始まり、ラロ・シフリンのレコーディング済みのスコアを「なんだこんなもの!」と悪魔に投げつけて自身で選んだマイク・オールドフィールド他のレコーデッド・ミュージックで構成された『エクソシスト』('73)。
 まるで悪夢でうなされるようなタンジェリン・ドリーム『恐怖の報酬』('77)、リチャード・ロドニー・ベネットのノスタルジックな『ブリンクス』('78)。
 フリードキンの70年代作品のサウンドトラックは正に充実していた。
 アンダーグラウンドのハード・ロックで彩った『クルージング』('80)で始まった80年代だが、アーサー・B・ルービンスタインを起用した『世紀の取引き』('83)で大迷走、『恐怖の報酬』から続いていた低評価、興業的失敗、そしてスコアもフリードキン作品としては、認めたくない程の作品を世に放ってしまった。
 そこでフリードキンは初心に戻るべく己の心の奥をフィルムに焼き付けたのが、1985年の作品『L.A.大捜査線 狼たちの街』だ。
 

 

 『フレンチ・コネクション』のドン・エリスがそうだった様に、フリードキンはサウンドトラックの経験の全くない映画界以外のミュージシャンをまたしてもチョイスした。
 それがイギリスのロック・デュオのワン・チャン
 1980年代に入り、57MENというバンドで2枚のシングルをリリース後、パッとしないバンドはその後ワン・チャンとバンド名を変えてGEFFEN・レーベルから1983年にリリースしたアルバム『POINTS ON THE CURVE (航跡)』でスマッシュ・ヒットを飛ばす。

 
 

 フリードキンがこのアルバムを大いに気に入り、自らの作品のスコアを担当して欲しい!とのオファーをワン・チャンに要請。
 丁度ワン・チャンもその頃メンバーが二人のみになり、サウンドトラックには大いに意欲的で『ブレックファスト・クラブ』('85)で1曲提供した直後であった。
 そうしてワン・チャンのメンバー、ジャック・ヒューズニック・フェルドマンはフリードキンの要請に応えてスタジオに入った。
 1980年代に相応しく、3曲のソング・ナンバーを新たにレコーディングした他は、パーカッションとベース・ギターが大胆なビートとリズムを刻むスコアが全編を覆い、不気味なコーラスをフィーチュアしたL.A.の悪夢をも聴かせるあたりは、思わず『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』『恐怖の報酬』『クルージング』のあのフリードキンのサウンドを呼び覚ましてくれる。

 

 ワン・チャンは、かつての『恐怖の報酬』の時のタンジェリン・ドリームがそうした様に脚本こそ読んだが、自分たちのイメージでサウンドを広げていった。
 勿論、完成したスコアはフリードキンを唸らせたのである。

 ワン・チャンのセカンド・アルバム、即ち『L.A.大捜査線 狼たちの街』のサウンドトラック・アルバムを聴き終えたウィリアム・フリードキンは、
 「ワン・チャンは最も進歩的なミュージシャンだ。
 しかし彼らの作る音楽はコンテンポラリーながら、クラシック的な要素も持っている。
 他のポップ・ミュージックとは一線を画して際立つ彼らにオリジナル・スコアを依頼したのはそんなことからだ。
 アルバムを聴いて改めて気がついたのだが、それぞれの曲が独立した魅力を持っており、この作品は素晴らしいフィルム・スコアであるだけでなく、モダン・ミュージックの見事なアルバムである。
 と自らサウンドトラック・アルバムの裏ジャケットにペンを寄せた。
 また、このワン・チャンのセカンド・アルバムについてメンバーのニック・フェルドマンは
 「デビュー・アルバムのヒット後、僕達は随分プレッシャーを感じていた。
 そこでこのサウンドトラックの話が来た。
 3分のポップ・ソングなんかではなく、長い曲をじっくりと書かせてもらえる仕事だったから、そのまま僕達のセカンド・アルバムにした。」
 と話した。

 
↑US盤LP(表)
↑US盤LP(裏)
 
 1980年代は、MTV全盛時代であり、サウンドトラック・アルバムが最も売れた時期。
 しかしその大半はティーンエイジャー向けのアーティストの新曲を満載にした - 新曲のお披露目カタログのような - アルバムであり、一枚のアルバムのコンセプトなんてまるで無視したようなコマーシャル商法のようなアルバムだった。
 いわばただのMTV世代向けのファーストフードのような。
 それでもこの時期、映画界以外のミュージシャン達がリリースした素晴らしいサウンドトラック・アルバムの数々の、なんと豊富な時代であっただろうか。
 
↑欧州盤シングル

 そんな素晴らしいミュージシャン達…ヴァンゲリス、ジミー・ペイジ、ライ・クーダー、タンジェリン・ドリーム、マーク・ノップラー、キース・エマーソン、リック・ウェイクマン、ピーター・ガブリエル、トニー・バンクス、スチュワート・コープランドらのロック界からリリースされた最高のサウンドトラック・アルバムに堂々、加わるのがこのワン・チャンでもある。

 

 GEFFENレーベルからリリースされた8曲入りのアルバムは、オリジナルLPのAサイドがソング・サイド(WAITのみフリードキンが好きなデビュー・アルバムからの曲)、Bサイドがインストゥルメンタルのスコア・サイド
 アメリカ、イギリス等、ヨーロッパ各国でリリースされており、各国でスマッシュ・ヒット。

↑UK盤12inch
 
↑US盤プロモ12inch

 特にヨーロッパではタイトル・ナンバーがシングル・カットされ、イギリスではスペシャル・エクステンデットの12インチ・3曲入りもリリース。
 この12インチ、映画でも使用されたデビュー・アルバムからのDANCE HALL DAYSのリミックス・ヴァージョンも収録した特別盤だ。
 日本では映画公開時の1986年でもリリースされておらず、1987年にようやくひっそりとリリースされた。
 1988年になるとCDとしてもリリースされ再びベストセラーとなるが、ワン・チャン自身の活動は停滞してしまう…

 

 今、聴いてもこのサウンドトラック・アルバムは、決して色褪せていない。
 1980年代の10年間でリリースされたサウンドトラック・アルバムの中でも異色の傑作アルバムとして、永久にL.A.の闇の中でこだましている。
 そして今、世界のどこかでワン・チャンは、主題歌のTO LIVE AND DIE IN L.A.を歌い続けている。

↑日本盤LP

 ウィリアム・フリードキンの作品は、いつも(といっても『ランページ』('87)までだが)驚愕のラストが待ち受けている。
 まるで観客の正常な神経を逆なでするかのように。
 現在のハリウッド作品としては到底認められないし、観客も受け付けないだろう。
 娯楽に金を出して鑑賞後楽しい気分になりたいとか感動に浸りたい者は、フリードキンの作品は観れないし、観てはいけない。
 そんな意味では『フレンチ・コネクション』『恐怖の報酬』『クルージング』よりもこの『L.A.大捜査線 狼たちの街』の方が強烈か。
 このラストの落とし前は、うーん…セルジオ・コルブッチの『殺しが静かにやって来る』のような味わいか?

 

 大体フリードキン作品のヒーロー達は、観客の感情移入を絶対に許さないとんでもない野郎達が多い。
 正義感よりも私怨で暴走捜査するジミー・ドイル、死神に追い詰められる犯罪者・ドミンゲス、ニューヨークの闇に取り付かれたスティーヴ・バーンズしかり。
 この1985年のヒーロー、リチャード・チャンスも何も正義感の捜査官では全くない。
 殺された相棒の復讐がまるで自分の危険なゲーム…いつも彼が楽しんでいた鉄橋から飛び降りるバンジージャンプのようにのめり込み、遂には我を忘れてしまう。
 こんなフリードキンのヒーロー達は、決して憧れの対象とはなり得ないし、惚れることもないだろう。
 でも皆、何処か弱く、人間的で憎めない。
 そう、ハリウッド映画によくある「聖人君子」の権化のような、実際には存在しないヒーローではなく、もっと現実的な親近感の持てるヒーロー達だ。

 

 リチャード・チャンスが天使の街L.A.に冷たく見放された夜の翌日、L.A.はいつもと変わらぬL.A.のその日だった。
 だがジョン・ブコヴィッチにチャンスが乗り移る ― まるで「エクソシスト」のリーガンに悪魔が、憑依したように…。
 そしてフリードキンお気に入りのワン・チャンのファースト・アルバムの曲『WAIT』が流れるエンド・タイトルに…

 
 …時間なんて忘れてくれ
  …時間なんか忘れてくれ
 君自身でいることが大切なんだ
 大切なんだよ
 時間なんか忘れなよ!
 待てよ!…
Wang Chung's "WAIT"