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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Klute: コールガール
監督   ジョン・シュレシンジャー
主演 ダスティン・ホフマン
ジョン・ボイト
音楽監修

ジョン・バリー

  ニルソン
Killing Fields, The

 

 テキサスの片田舎のしがない皿洗いの仕事を辞めて大都会のニューヨークへ!
 彼なりの大いなる夢を抱いてやって来た純朴なジョー・バック
 自慢の肉体をカウボーイ・スタイルで包んだ彼は、自らのセックス・アピールを武器に、金持ちだが愛に飢えている孤独な御婦人たちを手玉にとって稼ごうと考えていた。
 だが現実はそんなに甘くない

 

 大都会・ニューヨークは、彼みたいな世間知らずが生きていける街ではない。
 初めてモノにした中年女は実はパトロン持ちの元娼婦で逆に金を巻き上げられてしまう。
 落ち込む彼の前に現れたのが、肺を病み、片足が不自由なラッツオ(ネズ公)
 エンリコ・サルヴァトーレ・リッツォという名前だけは立派なイタリア人の小男だった。
 彼は初めこそジョーをペテンにかけたが、次第にこの世間知らずなジョーを気に入り、自分の取り壊し寸前のボロ・アパートに招いて奇妙な共同生活を始めるのだった。

 
 

 ラッツォのちっぽけな夢は、本格的な冬が来る前に常夏のマイアミへ行く事。
 マイアミへ行けば自分の病気も治ると信じていた。
 なんとか大都会の底辺から這い上がろうする二人はいつしか固い友情で結ばれていく。
 幼少時、両親に棄てられて祖母に育てられたジョー。
 地下鉄の靴磨きで肺を患って死んだ父を持つラッツオ。
 そんな二人だったが、ニューヨークの風は情け容赦なく厳しかった。
 その日暮らしの金も底がついて、時には自分の血も売るジョー。

 

 いつしか冬が到来し、ラッツォの病状も悪化してきた。
 それでも商売への明るい光が見えてきたと思われたが、その矢先、ラッツォはもう完全に歩けなくなっていた。
 フロリダでココナッツ・ジュースを飲みたい…でも今直ぐにフロリダに行く金もない。
 意を決したジョーはラッツォの為に強行手段で金をつかむ。
 そしてラッツォと共にフロリダ行きの夜行バスに乗るのだった。

 だがラッツォは夢にまでみたフロリダの砂浜を歩くことは出来なかった…

 

 英国人の監督、ジョン・シュレシンジャーが、異邦人の冷たい視線で描いたニューヨーク。
 昼と夜の闇にうごめくほとんどまともとは呼べないような人々
 そんな大都会のニューヨークの音楽には、生粋のニューヨーカーが相応しい…はずだったが、音楽を担当したのはやはり英国人のジョン・バリーだった。
 

 

 バリーは本作では「音楽監修」としてクレジットされているように、オリジナル・スコアは極めて控えめであり、大都会ニューヨークの雑踏のようにロック、サイケデリック・ミュージックなどを巧く散りばめている。
 ニルソンのさわやかなカントリー・タッチのフォークで幕を開け、ニューヨークへ移るとバリーの心に染み入るテーマ曲が嫌でも耳に残る。
 このテーマ曲が素晴らしい。
 ハーモニカ・ソロは、ジャン・トゥーツ・シールマンス
 主人公ジョーの純朴・素朴さをハーモニカが唄い、ラッツォの見かけは汚いが、心の奥底の美しさをストリングスが表すようなジョーとラッツォの二人のロンリー・テーマ。
 バリーはこのテーマをアレンジして全編に流し、そのテーマをかき消すかのようにサイケデリック・ロック・グループのエレファンツ・メモリーザ・グループレスリー・ミラーらのナンバーが、ビッグ・アップル、ニューヨークを彩っている。

 

 ジョン・バリーは「狂っちゃいねえぜ」('58)で注目され、ブライアン・フォーブスの「THE L-SHAPED ROOM」('62)がハリー・サルツマンに気に入られてジェームズ・ボンド作品を担当する事となる。
  「007 ロシアより愛をこめて」('63)、「ナック」('65)、「国際諜報局」('65)、「さらばベルリンの灯」('66)、オスカーを受賞の「冬のライオン」('68)、オスカー主題歌賞の「野性のエルザ」('65)等、1960年代は、バリーの黄金時代と言えるだろう。
 そんな60年代を締めくくる、総括的作品が「真夜中のカーボーイ」だ。
 本作はその後もバリー自身が、お気に入りのベスト作品の1本と公言しており、自身のセルフ・カヴァーのベスト・アルバムでも収録されている。
 本作ではバリーの書いたスコアはごく僅かだが、それだからこそテーマ曲が際立っており、胸を打つのである。
 

 1969年にリリースされたサウンドトラック・アルバムで、最もロック・ジェネレーションの若者に支持されたのが「イージーライダー」だとしたら、ロックやジャズ、ポピュラーな音楽を支持する大人達に愛されたのが「真夜中のカーボーイ」のサウンドトラック・アルバムではないだろか。

 

 映画を製作したUAからリリースされた12曲入りのアルバムは、まるで大都会・ニューヨークの昼と夜を音で感じる絶好のアルバムとなっている。
 ニルソンの「Everybody's Talkin」を筆頭にジョン・バリーのオリジナル・スコアの4曲を含む収録曲は、いずれもシングル・カットに相応しい名曲揃いだ。
 バリーのテーマ曲の素晴らしさは勿論、まるで007ばりの「Science Fiction」はセルフ・パロディ、ジョーが男の自信を取り戻す「Joe Buck Rides Again」のジャン・トゥーツ・シールマンスのハーモニカの素晴らしさ。
 劇中、オミットされた「Fun City」のメロウなジャズ・バラードの舌ざわりのよさ。

 

 「嗚呼、もっとバリーのスコアを聴きたい!」というコアなバリー・マニアの声もかき消すようなエレファンツ・メモリーのサイケデリック・ナンバーのLSDのトリップ感もこのアルバムの個性だ。
 特にザ・グループが唄う「A Famous Myth」のコーラスの美しさが、いつまでも耳に残る。
 この歌はラッツォが、ジョーをペテンにかける場面に流れてとても印象的。
 ホラ話が、有名な神話とは。
 ラッツォらしい?テーマ・ソングだ。

 
 

 UAからリリースされたアルバムの他、バリーのテーマ曲とニルソンの歌がRCAからシングル・カットされた他、エレファンツ・メモリーのナンバーもBUDDAHよりシングル・カット。
 アルバムは日本の初盤及びフランスでは、ジャケット違いにてリリース。
 また、アメリカ・日本ではもう一つのアルバム、エレファンツ・メモリーの「MIDNIGHT COWBOY」もリリース。
 これは劇中に使われたエレファンツ・メモリーの曲の他、バリーのテーマ曲とニルソンの歌をエレファンツ・メモリーが、カヴァーものを含む特別アルバム。
 本作を愛する者は、絶対に聴きたいアルバムだ。

 
 
 サウンドトラック・アルバムは、リリースと同時に世界的にベスト・セラーとなり、各国でその後もリイシューされ続けており、正にエヴァーグリーンである。
 CDも、UAレーベルが閉鎖されていてもEMIに移籍して素早くリリースされている。
 ジョン・バリーのサウンドトラックの中でもこれ程セールスがいいのは007シリーズと肩を並べる位だ。
 
 

 しかし現在、追加曲を大幅に増補した「メガ盛り・完全盤」のCDが大量にリリースされているのにも関わらず、本作のCDは未だに1969年の時計が止まったままだ。
 誰しも今の時間に合わせようと試みていた内にジョン・バリーは、帰らぬ夜行バスへと乗車してしまった。
 あのテーマのアレンジが漏れているんだ、バリーでは無いが、あのサイケデリックな電子音楽(Sear Electric Music Production)も聴きたいんだ、フロリダのオレンジ・ジュースの歌も…こんな声も誰も聴いていないのか。
 完全盤・CDは、叶わぬ夢なのか。
 ラッツォが夢見たフロリダの砂浜を走れなかったように…

 ニューヨークの真冬は、とても厳しい。
 ジョーとラッツオのように腹ペコで歩いていると、自然と視線は下がってしまう。
 両手をポケットに突っ込んで歩く後のラッツォは今にも泣き出しそうだった。
 そう、春が来る前にレコード・ラックから「真夜中のカーボーイ」のカヴァー・ヴァージョンのレコードを取りだそうか.....

 

 カヴァー・ヴァージョンは「Everybody's Talkin」(うわさの男)と「Midnight Cowboy」(真夜中のカーボーイのテーマ)が、何種類もリリースされている。
 ジョン・バリー自身も自分のアルバムでセルフ・カヴァーしており、またジャン・トゥーツ・シールマンスもセルフ・カヴァーをリリース。
 リアル・タイムでの名カヴァーとなるとジャズの名門レーベル、BLUE NOTEからリリースされたものは、リー・モーガンのトランペットが印象的なバリー作曲のテーマが心に響く。
 UAレーベル専属のルロイ・ホームズは「Everybody's Talkin」をカヴァー。
 その他、様々のアーティスト達にこの2曲は愛され、奏でられている。
 1977年には日本のキリン・ライト・ビールに、ニルソンの歌をCMソングとして使用。
 この時、CMソングとしてシングルが再びリリースされて注目を浴びた。

 
 

 そして意外にも1970年、ダスティン・ホフマン主演の「ジョンとメリー」のサウンドトラックのシングルのBサイドに「CRAZY ANNIE」(クレイジー・アニー 真夜中のカーボーイによせて)という曲がリリースされている。
 女性歌手のエヴィー・サンズが歌うこの曲は、ジョーの故郷の恋人…いやジョーがそう思い込んでいるだけの、街中の男と関係を結んでいた女・アニーの歌。
  歌詞が「You are the best joe... You are the only one...His friend's dying.......」とまるで「真夜中のカーボーイ」のアナザー・ソングのようでこれも又、聴き逃せないもの。

 
 

 ニューヨークという街は、結局ジョーとラッツオに相応しい街では無かった。
 勿論、ジョーのような甘い考えで生きていける街ではない。
 ラッツォを連れ出すことでようやくニューヨークと決別出来たジョー。
 しかしニューヨークは、ラッツォには死を与えた。
 夢の街、誰でもスターになれる街・ニューヨークは、ジョーとラッツオの目の前でただ消え去ってしまう。