ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...
ジュリアーノ! サルヴァトーレ! サルヴァトーレ・ジュリアーノ!
お前はシシリーの男の中の男。 己の信念と野心に生きて戦った男。 マフィアの裏切りの銃弾に散った男。
ジュリアーノ! 決してお前の事は忘れはしない。 俺達の心の中で生き続ける限り―
1950年6月、シシリーのモンテレブレの街路に男の死体が投げ出され、憲兵がさらに銃弾を撃ち込んだ。 男の名はサルヴァトーレ・ジュリアーノ、27歳。 シシリーの誰もが知る山賊、無法者だ。
シシリーには『影の政府』とでも呼ぶべきマフィアが存在していた。 その影の政府のいわば大統領がドン・マジーノである。 彼はジュリアーノに会ったことはないが、若き日の自分を思わせる彼に注目し始める。
その頃ジュリアーノは他の山賊達も配下にして群盗団を結成。 列車を襲い軍部の金を強奪すると、その金を農民に与えると宣言し一躍名を上げる。 いつしかその存在はアメリカの『LIFE』の表紙になるまでに大きくなっていく。 当然マフィアの幹部達は彼のことをうるさいハエの如く感じ始めるが、ドン・マジーノだけは我が息子のような気持ちでその行動を見守っていた。 ジュリアーノの組織はさらに肥大化し、奪った金が共産党に流れているのではないかという疑惑すら抱かれるほど、警察や政府もジュリアーノの存在を苦々しく感じていた。
だがジュリアーノがかねてからの恋人ジョヴァンナと結婚することになり、祝杯を挙げていると、いきなり警察に急襲されてしまう。 誰かが情報を権力側に流していると直感したジュリアーノは裏切り者を炙り出して処刑した。 その死体に舎弟のアスパヌがメモをピンで留めた。 「裏切り者はこのように死ぬ」と書かれたメモを―。
ドン・マジーノはジュリアーノをアメリカに移住させようと法務大臣を説得。 そしてドンとジュリアーノも始めて会談する。 結果、パレルモの大聖堂で枢機卿と法務大臣を交えて特赦を受けることとなるが、ジュリアーノ自身は現場に赴かず、腹心のアスパヌを向かわせる。
しかしアスパヌを信用していたジュリアーノは転落の道を転げ始めていく。 枢機卿や法務大臣らは政治的な理由でジュリアーノを裏切ったのだ。 怒り狂うジュリアーノは、枢機卿を誘拐、ドン・マジーノにも銃口を向けた。 だが一足先にアメリカに逃げた恋人にジュリアーノは再会することはなかった。 アメリカに向かう海の上でアスパヌはジュリアーノに銃弾をお見舞いしたのだ。 裏切りの根源はアスパヌだった。 裏取引をして生き長らえようとした裏切りの犬、アスパヌ。
ほとぼりが冷めるまで身を隠していたアスパヌにある訪問者が訪れる。 彼が去る頃にはアスパヌはすでに冷たくなっていた。 アスパヌの胸元にはこう書かれたメモがピンで留められていた。
「裏切り者はこのように死ぬ」
ジュリアーノ・サルヴァトーレ。 お前を忘れはしない。 シシリーが生き続ける限り。
「シシリーが舞台?マフィアの話?だったらエンニオ・モリコーネを呼ぶわさ!」 「誰でもよか!イタリア人の作曲家を呼んできんしゃい!」 と製作会社のグラッデン・エンターテイメントの幹部が叫ぶ中、マイケル・チミノは静かに 「音楽はデヴィッド・マンスフィールド以外はない」と答えた。 無能な幹部がどう言おうと結局は、チミノの希望通りの音楽となった。
決して安っぽいイタリア風のスコアではないこの『シシリアン』のスコアを書いた男、マンスフィールドは、チミノとは『天国の門』('80)、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』('85)に続いて本作で3度目の仕事となる。 元々、ミュージシャンのマンスフィールドは、ボブ・ディランのバンドなどで活躍していた。 『天国の門』では当初端役のミュージシャンとして出演していたただの小僧だったが、途中で音楽担当者に大抜擢された。 この『シシリアン』では堂々たるシンフォニック・オーケストラを聴かせる大物の貫禄すら感じさせている。
1985年、氷河期状態の映画音楽市場にナパーム弾が炸裂! 「映画音楽なんて売れないよ!」と高をくくっていた世間を黙らせたボンバー野郎が登場! そう、それまでマイナー・レーベルだったVARESE SARABANDEが放ったモーリス・ジャールの『刑事ジョン・ブック 目撃者』('85)、ジェリー・ゴールドスミスの『ランボー 怒りの脱出』('85)のアルバムが爆発的セールスを記録したのだ。 しかもメジャー・レーベルが無視したこれらのアルバムが売れたことで世間は悲鳴を上げたのである。
勢いに乗ったVIRIGIN AMERCAでは、なんとVIRGIN MOVIE MUSICなる映画音楽専門レーベルを立ち上げた。 そして『シシリアン』のサウンドトラック・アルバムがリリースされたのだ。 全25曲入りのヴォリュームたっぷりのこのアルバム。 本来ならVARESEあたりがじっくりとセールスする渋いアルバムを、VIRGINがリリースした意味は大きい。 決してポップ・ロックではない、純粋な映画音楽であるのにだ。
アメリカ、イギリス、フランス、イタリアそして日本などでリリースされたこのアルバム。 作品自体の興業的失敗で売れ行きも振るわず!なのが寂しいが、今振り返るとこうして堂々とリリースされていたことに意義があるのだ。 フランス、イタリアではそれぞれジャケット違いなのも味わいである。 パッケージで音楽を買わない!なんて冷たく言い放つ世代にはこんなパッケージのデザイン違いなんてどうでもいいのだろうけど。
ほぼ映画の登場順に曲が並べられたこのアルバムは、ロンドンで仕上げ作業が行われた。 アルバム・プロデュースもマンスフィールド自身なのか不明だが、正しいサウンドトラック・アルバムのお手本のようで、最高の『男気魂』が溢れており、今現在も魅力が失われることはない。 そう、1987年のあの時代にVIRGIN MOVIE MUSICより誕生したのだ。 この男の魂が…!
キッチンにあったピーマン、玉ねぎ、ハムをチャチャっと炒めてマ・マーのスパゲッチーを加えますわな。 そいで塩・コショウで味を付けましてな、ケチャップをブッチューと搾り出してさらに炒めますわな。 ほーら、スパゲッチー・イタリアン!ナポリタン!の出来上がり!さー、召し上がれ! ってシシリー人に食べさせたら間違いなく殺されまっせ!! …なんてイタリアン・ジョークはこのくらいにして。
『シシリアン』が生まれた1980年代は男気溢れる濃厚な作品が未だ色々と存在していた。 でもここ最近はどうだ? この2000年代にそんな男気を感じる作品があったか?え? 海賊に男気を感じるか? CGで塗りたくたった作品にそんな味わいがあったか? まったく! あきまへんがな!
でもこの現代に「男気とかマイケル・チミノ」とか言ってもただ時代遅れだし暑苦しいだけなのも分かってますよ。 婦女子に力説しても聞いてはくれません。 聞いてくれて涙してくれる婦女子はよほどの昭和オタクな女子でありましょう。 でも知ってます。 そんな今だからこそ逆に『シシリアン』みたいな味がさらにおいしくなるんです。 さらに当時よりも深く理解出来るし、その愛が深まるのです。 夜の一人酒が増えておいしくなるのです。 BGMは昭和歌謡、いや『シシリアン』ですよ。 時代に逆行してもあの時代に惚れこんでしまうんです。 どっかのパチンコ業界、人気女優を嫁さんにする位の財力があるのならマイケル・チミノの新作の資金を出せや! それでこそ真の男になるのに…!
おっと最後にシリアスなことを。 実在のジュリアーノを描いた作品はフランチェスコ・ロージーの『シシリーの黒い霧』('62)が有名ですが、チミノ版の『シシリアン』は『ゴッドファーザー』('72)の原作者、マリオ・プーゾの1984年に出版された小説を映画化したもの。 プーゾの小説は事実とフィクションを取り混ぜたお話でした。 なんせ『ゴッドファーザー』でシシリー逃亡中のマイケル・コルレオーネがジュリアーノと出逢い、マイケルがアメリカにジュリアーノを逃がそうとするお話でもありましたから。 勿論、完成した映画版ではマイケルは出て来ません。 いわゆるオトナの事情って奴のせいですね。 けれど小説の中でジュリアーノとマイケルはその男気の世界で生き続けています(ちょうど高知の坂本龍馬のように)。