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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Exorcist, The
監督・脚本 昭和のかほりのする、腕白大将
クエンティン・タランティーノ
出演   金髪大女の肝っ玉母ちゃん
ユマ・サーマン

 パッパラッパラッパーっ!
 とクインシー・ジョーンズの『鬼警部アイアンサイド』のテーマと共にやって来た!
 土曜の夜の「ウィークエンダー」のテレビ三面記事!
 レポーターは桂朝丸(現ざこば)!
 今夜のレポートは「昆虫いじめ」「結婚詐欺」「不倫殺人」「幼女悪戯」とはちゃいまっせ!
 「金髪花嫁の怨み節」でっせ!
 ま、聞いとくなはれ!

 

 

 米国はテキサスの教会でな、結婚式がおましてな。
 そこに呼ばれてもないのにビルっちゅう怖いオッサンがやな、手下4人を引き連れて来賓客を皆殺しや!
 そんで金髪の花嫁をボコボコにしてやな、
 「目玉焼きが焼ける位に顔が熱いぜ。焼いてみようか?」
 とほざきよって!
 目玉焼き位、台所で焼けやオッサン!
 そいで花嫁のドタマにズドンや!
 何さらすねん!
 そのオッサン、何と花嫁の元彼やねんて!
 奥さん!こんなんストーカーよりコワイでっせ!

 
 ところが奇跡的に助かった花嫁はな、病院で4年間も昏睡状態やったんが、蚊に刺されて目覚めたんや!
 花嫁はな、実はポンポンに赤ちゃんがおったけど死んでもうたんに気がついてやな、ビルとその一味を皆殺しにしたる!と復讐を誓いますねん。
 浦見魔太郎よりもコワイでっせ!
 恨みの花嫁は手始めに前祝いとして、病院の看護師のアキレス腱をぶった斬り!
 頭ガイコツを破壊しますんや!
 ごっつぃ痛いでっせ!
 それで車を盗んで逃げますんや!
 そっから金髪花嫁の怨みの復讐行脚が始まりますんや!
 
 

 まずは白昼の家庭にピンポン・ダッシュ!
 「セールスかしら?」と玄関に出た主婦にいきなり鉄拳をお見舞い!
 殴りこみセールスか!
 でもこの主婦こそビルの一味やったんや!

 「来な!メス犬!」
 「殺してやる!メスブタ!」
 と、お父ちゃんには聞かせられんセリフの応酬を昼飯のおかずに殺し合いや!
 でやな、幼稚園児の前でそのオカンたる主婦を惨殺!

 

 主婦惨殺で勢いのついた花嫁はやな、日本のオキナワまでひとッ飛び!
 何を思ったか、オキナワの寿司屋に入って
 「へい!何、にぎりやしょう!」
 という大将に「ニホントウ!」と無理な注文をする金髪花嫁!
 「外人のお姉さん、ウチは寿司屋なんで刀はにぎりやせんぜ!」
 とのっけから江戸前魂を侮辱した花嫁はおもむろに、
 「ハットリ・ハンゾウ!」
 と威勢よく叫ぶと、なんと大将の顔色がいきなり変わりますんや!

 

 「…ニホントウがなぜ必要で?」
 「キリタイネズミガイルカラ…」
 と刀の通販番組のような会話をしましてやな、日本刀をゲットした花嫁はいよいよ首都・トーキョーへ殴り込みをかける!
 もう誰にも止められまへんがな!

 
 
 東京に着くやいなや、ブルース・リーに無断で『死亡遊戯』のトラック・スーツを着用して居酒屋風炉端屋の名店「青葉屋」に乱入!
 あんた、ここで合コンする暇があるんやったら…と思ったら、ここに次の標的、何故か正月・振袖姿のオーレン石井っちゅう女とその仲間がおりましてん!
 

 

 花嫁はまず、付き出し代わりに通訳兼仲間のフランス女・ソフィーの腕をぶった斬り!
 オシャレの総本山・フランス女は容赦せえへんで!とハットリハンゾウ謹製の日本刀で、他の一味もまとめて串刺し&ナマス切り!
 返り血の喝采を全身に浴びた花嫁は、オーレンの秘蔵っ子・人間兵器にして現役私学女子高校生のゴーゴー夕張と対決や!
 「アンタの夕張は今、えらいこっちゃ!はよう、北海道へ帰らんと!」
 と花嫁の説教にも耳を貸さない女子高生!
 鞄から出て来たのは参考書やなくて空飛ぶギロチ…やなくてイガイガ鉄球や!
 でも花嫁にはコワイもんはあらへん!
 問答無用!とゴーゴー夕張、脳天釘バットで目から大出血で惨死!

 

 ところが今度は間髪入れずに88人の刺客(通称・クレイジー88)がなだれ込んで来たがな!
 でも花嫁は老舗の料理屋の板長の如く、見事な刀さばきで刺客の腕!頭!足をぶった斬り!
 目玉の付き出しもあるで!
 と、あっという間にコンパで賑わう居酒屋は、見事な血の海・切り株の山!
 「あーもう!掃除する身にもなってよ!」
 と掃除のおばちゃんを泣かしてどないすんねん!

 
 

 見事に掃除当番をサボったオーレンと花嫁は、最後の対決の場として雪のしんしんと降りしきる日本庭園へと雪崩れ込む!
 金髪花嫁と振袖娘の対決は羽子板・対決やあらへんで!
 日本刀やで!
 ここでも花嫁は見事な刀さばきでオーレンを一生嫁に行けない傷物にしてしまうんや…

 さんざん天神祭りとだんじり祭りを足しても余りある程に暴れた花嫁はやな、その怨み行脚・復讐の最後の場として米国に旅立ったんやと…

 
 

 女は怒らすとコワイでっせ…

 「あに?何だって?仔牛肉のポワレ・秋の味覚 赤ワインバターソースだぁ?
 そんなものオイラんとこは出来ないよ!
 ウチはなぁ、丼物・麺類一式の大衆食堂だよ!
 てやんでぃ!チキショーめ!けえれ!」
 と大将クエンティン・タランティーノが吠えるように、『キル・ビル』のサウンドトラックの食材は全てクエンティンの自宅にあるレコード・ラックにコレクションされたアナログLPからセレクトされたものである。
 それらは「麺類」(マカロニ・スパゲッティ・ウェスタン、ショウ・ブラザースのラーメン)、「丼物」(梶芽衣子や日本映画)、そして「トンカツ」(アメリカのB級映画・ロカビリー・ロックなど)と、下町の大衆食堂感覚でセレクトされ、全編おもちゃ箱をひっくり返したような感覚でサウンドトラックを完成させている。

 

 元々は別の映画の為に作られた曲のはずなのに、ここではまるでこの作品の為に書かれたとすら錯覚させるまでに聴こえるのが不思議だが、ここにタランティーノの選曲の巧さと、他人には真似の出来ない技とセンスがある。
 映画音楽をただのBGMや効果音としてではなく、あたかもキャラクターのセリフや吐息のように使い、そしてMTV感覚で音楽を主体に編集していく手法。
 しかし必要以上に音楽がでしゃばり、ただ湯水のように使われてもストーリーは生きてこない。
 クエンティンの映画では絶妙なバランスを持ってセレクトされたこれらの曲のお陰で、各場面が生き生きとリズミカルに動くのだ。

 

 

 デビュー作『レザボア・ドッグス』('91)から『パルプ・フィクション』('94)でこの手法を一般に認知させたタランティーノは、続く『ジャッキー・ブラウン』('97)で少し控えめの大人の選曲でシックにキメた。
 しかしこの『キル・ビル』では一転、歯止めのきかない破天荒ぶりを発揮するのだ。
 タランティーノのレコード・ラックには、相当に貴重盤が隠されているらしく、ホイホイとこんな凄いメニューが出来上がってしまうのである。
 それは身の回りにある食材でチャチャっと作った「お好み焼き・たこ焼き」の感覚に似ているかもしれない。

 

 「キル・ビル」のサウンドトラックはそんな既製の材料で構成されたが、ごく僅かにオリジナル・スコアを書いたのがタランティーノの下町仲間・THE RZAだ。
 ほんのわずかにアクセントを付けるだけの音楽。
 例えば、オーレンのヤクザの組長との会食の場面とか青葉屋のシーンといったシーンで効果的に使用された。
 「オレにもやらせろや!兄貴!」とTHE RZAが叫んでも、まるで定食の付け合せキャベツのようなオリジナル・スコアでありました。

 「映画音楽はスコアもの、シンフォニックでないとダメ!」と訴えてもタランティーノ作品の前では木っ端微塵に吹っ飛んでしまう。
 既製の曲でサウンドトラックを構成するのは昔からあったが、タランティーノ作品ではその手法が一味違う。
 なんせ他の映画の印象的な曲を平気で臆面もなく使用してしまう。
 だがそれらは「理屈抜き・いいものは何でも使う」という哲学で統一されている。
 毎作品、そんなおもちゃ箱を開けてみる子供のような楽しみ・悦びがある。

 ほら、子供の時のお菓子のオマケであったでしょう?
 あのワクワク感…あれですよ、あれ…

 「うひゃひゃ!
 オイラには、高い権利金を払ってくれるおじさん(ワインスタイン兄弟)がいるんだよ!
 だから選曲は何でもあり!
 実はおじさん、泣いてるけどね!うひゃひゃ!」

 ドラ息子・クエンティンのおねだりにはNOと言えないワインスタイン兄弟。
 だが、そんなドラ息子も『ジャッキー・ブラウン』から自前のレコード・レーベル、A BAND APARTを設立。
 しかもマドンナのレーベル、MARVERICKと共同で。
 「おい、お前もこのアパート(レーベル)を借りてやっから、勉学に励めよな!」とワインスタインが言ったかどうかは知らないが、『キル・ビル』のサウンドトラック・アルバムは、そんな彼自身のレーベルからリリースされた。
 しかも2003年のCD時代にかかわらず、クエンティンの希望によりアナログ・LPも限定リリース。
 自身もヴィニール・ジャンキーであるクエンティンらしく、LPにはこだわりがあるのだ!

 

 厳選されたトラックは全17曲。
 収録アーティストもナンシー・シナトラルイス・バカロフバーナード・ハーマンアル・ハート布袋寅奏梶芽衣子など凡人には、考えつかないメンツ。
 収録時間の関係等もあり、他の曲が未収録なのは仕方が無いが、このアルバム一枚でも恐ろしく濃厚なのは間違いない。

 

 特にB.ハーマンの『TWISTED NERVE(密室の恐怖実験)』('68)がシレッと入っているが、このLPはウルトラ貴重盤だ(英国オリジナル・ポリドール盤。片面は『あの胸にもう一度』!)。
 あと激レア音源としては『グリーン・ホーネット』米20世紀FOX盤が双璧だ!
 こんな激レア盤が、クエンティンの自宅のレコード・ラックに刺さってると考えるとぜひ覗きに行きたいものです。
 今ではこれらの曲はCDアルバムがリリースされたが、当時はこの曲目当てに『キル・ビル』のアルバムを手に入れたサントラマニアも多かったのだ。

 また、『サンゲリア』('80)のフリッツィ、テンペラ、ビクシオによる『ルチオ・フルチのザ・サイキック』も収録(THE RZAの叫びが邪魔!)。
 この曲も当時、初CD化である。
 元々、シングル盤のみイタリアのCINEVOXよりリリースされていたものだが、こんな曲もクエンティンは所持しているとは恐れ入る。
 この『ザ・サイキック』も後にアルバムとしてCDがリリース!とその後のオマケ・リリース現象もあった位、『キル・ビル』効果は持続していた。

 
 
 『キル・ビル』を観てサウンドトラックを聴きたくない!欲しくない!なんて人は居なかったのでは?と思える位の本作は、まさに2003年のサウンドトラック・オブ・ジ・イヤーと言えた。
 コレクションとしてはアメリカ盤のCDのみジャケットが違い、他の国はインターナショナル・ヴァージョンとして統一されている。
 なお、LPのジャケットはインターナショナル盤のジャケットを採用しているが、一部のルートでこのLPを入手するとUSA盤・CDタイプの別ジャケットをLPサイズで貰えた。
 いかにもマニア心を刺激する特典だ。
 そしてブートレッグでピクチャー・ディスクのLPもリリースされていたりするのでコレクターはたまらない!
 

 ところでアルバムを聴いている間は、滅茶苦茶に楽しいのに聴き終えると何故か、フっと寂しくなるのは何故だろう?
 この気持ちは、子供の頃、さんざんに遊んでも遊び足りない夕暮れ時のあの気持ちだ。
 夕焼けと共に家に帰らないといけない、でも、もうちょっと…という、あの夕焼け小焼け感覚を再び味わうとは…

 今宵もようこそ!昭和歌謡ホールへ!
 嗚呼、今夜も又、あの裏切った男の顔が浮かんでしまう。
 忘れようとも忘れらない、あのひとのタバコを吸う横顔。
 ふと想い出に身を委ねて飲んでしまう、熱燗。
 憎い、殺してやりたい!
 気持ちと裏腹に浮かんでは、消えるあのひとの笑顔。
 嗚呼、おんなは悲しい生き物。
 夜の闇に逃げても逃げ切れないおんな。
 さあ、今夜も歌ってもらいましょう!

 梶芽衣子さんで、怨み節!! (『キル・ビル』主題歌)

 

 

 花よ綺麗とおだてられ
 咲いてみせればすぐ散らされる
 馬鹿な バカな 馬鹿なおんなの恨み節

 運命哀しとあきらめて
 泣きをみせれば また泣かされる
 女 おんな 女なみだの怨み節

 憎い口惜しい 許せない
 消すに消えない 忘れらない
 尽きぬ つきぬ 尽きぬ女の怨み節

 

 夢よ未練と 哂われて
 覚めてみせます まだ覚めきれぬ
 女 おんな 女ごころの怨み節

 真っ赤なバラにゃトゲがある
 刺したかないが 刺さずにゃおかぬ
 燃える もえる 燃える女の怨み節

 死んで花実が咲くじゃなし
 怨み一筋 生きていく
 女 おんな 女いのちの怨み節