ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...
ビリー・クラダップ ケイト・ハドソン パトリック・フュジット
1973年。 ボクはウィリアム、15歳。 弁護士を目指す優等生。 厳格なオカンは大学教授。 そんなオカンと衝突した姉貴は、4年前、「オカンなんかくたばれや!」と罵声を浴びせて「スチュワーデスになったる!」と家を飛び出して行方不明。 オカンはオカンで「あー!これで家も図書館みたいに静かになったわ!クソ娘が!(でも元気でな!)」とシャウトしていた。 そんな姉貴が、家出の時にひっそりと置き土産を残していった。 「オカンには内緒よ。オカンが寝てから聴いて。」 その姉貴の形見とは…? そう、ロック・ミュージックのLPレコードの数々! Yes! 真夜中にザ・フーのアルバムを聴いた!燃えた!衝撃を受けた! ボクはロックの虜になってしまった! 人生が変わってしまったもんね。 …朝日ソノラマの怪獣本よ、さらば…
ボクは学校新聞や地元の新聞にロックの記事を投稿。 そしたら有名なロック・ライターのレスターの目に留まり、 「評論家で成功したきゃ、正直に手厳しく書けや。」 とアドヴァイスをもらった。 そしてレスターはボクにブレイク寸前のロック・バンド、スティルウォーターのツアーに同行して記事を書くという仕事をくれたのだ。
出発前、オカンが 「毎日、電話するんやで!危ないクスリはアカンで!」 とうるさかったけどなんとか無事に出発。 そこでボクはバンドに同行するグルーピーのリーダー的な女のコ、ペニー・レインに一目ぼれ。 なんて眩しいんだ。 彼女の姿を見ているだけで、彼女が微笑んでくれるだけで、すべてが光に包まれる… 切ないって息苦しいんだね… オカン、これはボクの初恋や… ペニーは「自分達はグルーピーではなく、バンドを助ける『バンド・エイド』なの。」とボクに語った。 ん?バンド・エイドってジョンソン・アンド・ジョンソンの絆創膏?と思ったが、どうやら違ったらしい.......
バンドのメンバーは何かとボクに冷たい。 なんでもジャーナリストは嫌いらしい。 しかもボクをガキ扱い。 やたら「Hey! Shake it up, Baby!」って頭を殴るんだもの。 「知ってらい!ろけんろー!しぇけな...」 ってやり返す側でクスクス笑うペニー。 うーん、幸せっす。 でもペニーはギターのラッセルと付き合っているらしい…
ヘナヘナとスライム状態のボクになんと有名雑誌ローリング・ストーンから「ウチで記事を載せたい。」との連絡が! 一流紙に掲載されるって事でバンドのメンバーにも認められたボク。 ラッセルとも仲良くなれた。 だけどツアーの各地でヴォーカルのジェフとラッセルが対立したり、バンドの結束が崩れたり。 ラッセルはボクに「裏話は書くな!」と忠告。 けれどレスターに意見を聞くと、彼だけは「正直に書け。」とボクを励ましてくれたんだ。 そんなボクの心の支えはペニーだけ。 でもラッセルには実は本命の恋人が居て、ペニーはその事実を知ってしまった。 どうする事も出来ないボク。 ペニーはとうとう自殺未遂を起してしまう。 あー、どしたらええんや! でも耳元で「永遠に愛してる」と囁くだけしかできないボク…
ペニーは現実の世界に戻ると決心してバンド・ツアーから離れてしまい、その一件でボクもバンドから追い出されてしまった。 傷心状態で「だからオトナは嫌いやねん…」と家に帰ると絶縁状態の姉貴とオカンが和解してるやないの。 そしてボクの記事が、ローリング・ストーンに掲載されてラッセルが、家に訪ねて来た。 彼はボクに謝罪すると共に記事を絶賛してくれてオマケにボクを一人前のライターとして認めてくれたんだ。
そのサウンドトラックを任されたのは二人のロック・スペシャリスト。 まずは監督のキャメロン・クロウと共に数々のロック・ナンバーをセレクト、そして旨くサウンドトラックとしてフィットさせたのは、ダニー・ブラムソン。 彼はキャメロン作品の常連で既に『セイ・エニシング』('89)、『シングルズ』('92)、『ザ・エージェント』('96)でキャメロン作品の音楽を監修。 今回はビートルズ、ローリング・ストーンズなどは避けて通りながらもレッド・ツェッペリン、サイモンとガーファンクル、ザ・フー、エルトン・ジョン、トッド・ラングレン、ビーチ・ボーイズ、デヴィッド・ボウイ、そしてスティーヴィ・ワンダー、映画中の架空バンドのスティルウォーターの原型バンドのオールマン・ブラザース・バンドらのナンバーが、劇中を埋め尽くす。 これらのロック・ミュージックが、1973年のロック全盛期の空気を見事に振りまき画面が生き生きとするのだからこれぞロック・パワー。 ディスコ、AOR、へヴィー・メタルなどが全盛期になるのは、未だその後であり、とにかく若き世代、レヴェル世代にはロックこそが全てだった。 ブラムソンは元々、ワーナー・ブラザース・レーベルの映画音楽部門のエグゼクティブ・バイス・プレジデント。 音楽を監修した作品は、他にも『さよならゲーム』('88)、『テキーラ・サンライズ』('89)、『オースティン・パワーズ』('97)、『プラクティカル・マジック』('98)等があり、とにかく売れるサウンドトラック・アルバムをも世に送る名プロデューサーでもある。
そしてメイン・タイトルから素朴でほんわかしたギターをフィーチュアしたスコアを聴かせるのは、当時のキャメロン・クロウの妻でもあるナンシー・ウィルソン。 彼女は、姉のアンと美人姉妹をフロントにしたハード・ロック・バンド、ハートのギタリストとして1976年にデビュー。 当時のランナウェイズらとは異なり、ただのお色気バンドでは決してなく、レッド・ツェッペリンばりの本格的なハード・ロック・バンドだ。 キャメロンの『セイ・エニシング』に参加してから妻になり、『ザ・エージェント』のスコアも担当。
今回は彼女のバンド、ハートの名アルバム『BELL LE STRANGE』に収められていたインストゥルメンタル・ナンバーの『SILVER WHEELS』の延長のようなスウィートなスコアを提供。 特にペニーとウィリアムの空港での別れの場面の曲なんてもう胸キュンもの。 ハート時代では、姉のアン同様、ケバイメイクに女だてらにギターをかき鳴らすアクションで有名なナンシーだったが、そうハートは何もハード・ロックだけが売りではなく夢見る優しく甘いバラードも魅力なバンドだったのだ。納得。
本編の優しいスコアを耳にするだけでハート時代の必殺のロッカ・バラード『TELL IT LIKE IT IS』が頭の中で勝手に鳴り出す! Shake it up、べいべー!
ロック・ミュージックで埋め尽くされたサウンドトラックのレジェンドネスなアルバム。 それらは1969年の『イージーライダー』、1970年代に入ると『いちご白書』('70)、『小さな恋のメロディ』('71)、『アメリカン・グラフィティ』('73)、『FM』('78)、『アメリカン・グラフィティ2』('79)、1980年代でも『タイムズ・スクエア』('80)、『再会の時』('83)、『1969』('88)… 1990年代ではどうだ?『マイ・ガール』('90)、『グッドフェローズ』('90)などがそうであり、2000年代でいきなりクラシックとなったのがこの『あの頃ペニー・レイン』のサウンドトラック・アルバムだ。
当時まだ製作会社のDREAMWORKSはレコードレーベルを所持(部長はザ・バンドのロビー・ロバートソン)しており、17曲入りのCDのフォーマットに合う様、長時間収録でリリース。 残念ながらスティーヴィ・ワンダーの『My Cherie Amor』(ペニーとウィリアムの名盤の曲!)が未収録であったり、ナンシー・ウィルソンのスコアがたった1曲なのも物足りないが、エルトン・ジョンの「Tiny Dancer」、エンド・タイトルのビーチ・ボーイズの「Fell I Flows」が収録されているのが救い。
が、何と!アドヴァンス・プロモーション用として2枚組のLPとして少数ながらプレスされて関係者に配布されている。 そして翌年、DVDがディレクターズ・カット版の「UNTITLED」としてリリースに合わせて、コレクター向けの限定通しナンバリング入りの2500枚限定の上、高音質の200グラム・ヴァージン・ヴィニールの2枚組のLPとしてリリース。 CDとはジャケット違いの上、5曲もCDより多い。 しかもポスター、バックステージ・パスも付録で封入の涙もの。 また、CDより多いこの5曲分+1曲はUSA版・限定仕様DVDの付録CDとして封入。 うーん、マニア泣かせであります。
これだけ気合の入った仕様でリリースされるということは、このサウンドトラック・アルバムを心の友、いや恋人のように愛する者が存在するということ。 もう映画の想い出の付属物なんかじゃない。 人生の青春の大切な想い出のサウンドトラック・アルバムとランクインされてしまったのだ。 Rock it !
15歳にもなると男子も女子も自分自身の趣味嗜好、ライフ・スタイルなど身に付き始めます。 学校の帰り道、必ずあの店に行くとか食べるとか、帰宅後、自分の部屋で何々をするとか、クラブ活動に汗を流すとか、友達と長電話するとかね。 振り返ればその時も青春の1ページでありましょうか。
誰とは言いませんが、 「自分も15歳になった!読書に励もうか。まずは日本文学の団鬼六・全集。お次はフランス純文学の富士見ロマン文庫を読破…」 という彼。 ま、風の噂で夜、一睡も出来なかったとか。 でも非常に感性豊かになったと聞きます。
『あの頃ペニー・レイン』を鑑賞後は、どうしても自分自身のあの頃と重ね合わせたくなります。 初めてロックをFMで聴いたことや、初めて買ったLPレコードのことなどが、カレイドスコープのように鮮やかに蘇ります。 そう、あのコと一緒に帰宅したことや、昨日FMで流れていたロックの感想を言い合ったりとか… それと誰とは言いませんが月刊プレイボーイ誌のセンターフォールドのプレイメイトに感激して「これぞロック!」と叫んでいたあいつ。 紀伊国屋の洋書コーナーでUSA版プレイボーイを購入後、油性マジックの修正箇所をシンナーで消そうにも消えずに「これがロック!」と泣いていたあいつ… ま、こんな15歳もアリです。
「あの頃×××と」の×××に当てはめれば、また繰り返しこの作品を見返したくなります。 勿論、「あの頃富士見ロマン文庫と」でもいいし「あの頃月刊プレイボーイと」でも。 自分自身のペニー・レインは、必ず存在するはずです。 あの頃が存在しないなんて何て淋しく悲しいことでありましょうか。 何も空に唾を吐き棄てるのが、15歳のあの頃ではありません。 今日だけは、あの頃よく聴いたLPレコードと、自分だけのペニー・レインと共に過ごしましょうか。
I love you, penny. And I'm about to boldly go where...