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ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです... |
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孤独な大都会、ニューヨークのマンハッタン。
誰も他人には無関心。アパートの隣人が誰なのかすら知りもしねえ。
真夜中にはとんでもねえ事が起きてるのに、皆、知らぬ存ぜぬと来た。
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そんなマンハッタンにテレサという若い ―そしてバカな― 女が居た。
ある日、新聞に彼女の事が載った。
いちやく有名人になった彼女だが、3日後には忘れ去られちまった。
バカな女だぜ。彼女はあの世に居るんだから。
聞いてみるかい? バカな女の哀れな話を―
女子大生のテレサはとても美人だったけどよ、とにかくコンプレックスの塊だったとよ。
なんでも6歳の時にポリオにかかり、手術の傷跡が大きくあったとよ。
いつ再発するかもしれない不安が、彼女の心を暗くしてたとよ。
美人なのによ、大学でもオトコとロクに話さずによ、いつも下を向いて歩いてたとよ。 |
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そんなテレサも若い教授の答案を整理するバイトをしたとよ。やるじゃねえか。
でも教授にヴァージンを奪われてさっさと冷たくあしらわれたとさ。
おまけに教授は妻子持ちだとさ!
笑えるぜ!
こんなオトコに引っかかるテレサもバカだけどよ。 |
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気持ちの荒んだテレサをもっと暗くさせたのは、親父だとよ。
テレサの姉貴はやりたい放題の荒れた生活をしてるのにテレサには尼さんのような生活を強要する親父とは、ある日大ゲンカをして家を追い出されたとさ。
一言、謝ればいいのに…テレサはバカな奴だぜ。
一人暮らしを始めたテレサだが、その部屋は荒れ放題。
とても女の子の部屋じゃねえ。
そして毎夜、フラフラと渡り歩いてやがる。
何をやってんだ?このバカ女は!
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このバカ女、大学を卒業すると何を思ったか聾唖学校の教師になる教習所に通い始めたとさ。
これでバカも直ると思いきや夜のフラフラはやめねえ!
それに「ミスター・グッドバー」というショット・バーに入り浸り始めやがった。
そこは行きずりの相手を求めるバーなのによ。
テレサみたいな女が行くとこじゃねえのによ。
…バカ女にはわかりゃしねえか。
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案の定、チンピラの誘いにフラフラと乗っちまって部屋にも上げやがった。
チンピラにズコズコにされて喜んでやんの。
バカ女、眼を覚ませよ。
昼間は子供の教師として聖女を装い、夜は酒場でフラフラ、一夜限りのオトコとバコバコ!
こんな荒れた生活にテレサは生き生きとしてやがる。
そしてイッパシのアーバン・ウーマンを気取ってやがる。
誰か止めてやりなよ!このバカ女をよ。
彼女の暴走は止まらねえ。
子供の前でも体の疼きは止まらず、酒場でアイザック・へイズみたいな黒人の 大男からコカインを買い、やり始めやがった!
そして一夜限りの男とコカインの暴走特急!
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そんなテレサも純真な子供の瞳だけは誤魔化せなかったとさ!
懐いてた子供もテレサを拒絶し始めたと!
当たり前だぜ!子供の眼は神の眼だぜ!誤魔化せやしねえぜ!バカ女!
ちょっと落ち込んだバカ女にもよ、好意を持ってくれる男が現れたと。
それが何と真面目すぎる程純真な男でよ、酒はおろか夜遊びもしねえ、カトリックの神父を目指した男だとよ。
これでテレサもバカ女卒業!と思いきやテレサは彼をバカにしてやがる。
それでも純真な愛を捧げる彼を拒絶し始めやがった!
何をしてんだ?このバカ女!
そしてクリスマスの夜、プレゼントを持って来た彼と甘い夜を過ごして…
何とバカ女、近藤さんを風船代わりに膨らませてゲラゲラと笑い狂ってやがる!
男の自尊心を平気で傷つけても笑ってやがる!
もうこのバカ女は誰にも止められねえ!
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麻薬の不法所持で捕まる恐怖とポリオの再発の不安に支配されても酒場とコカインと男漁りは止めないテレサ。
もう誰も何も言わねえよ、好きにしたらいいさ、バカ女。
一人、部屋でメソメソナ泣いても誰も助けないさ、バカ女。
昼と夜とでこんなにも別人のような女は、見た事ないね。
テレサ、オマエはマンハッタンの女ジキルとハイドさ。
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バカ女はいつものように酒場で出会った一夜限りの男を部屋に上げてコトを始めた時、それはいつもと違っていたとさ。
何でもその男の股間が、ウンともスンと言わねえとさ。
そう、男はゲイだったと!バリバリのホモだったとさ。
バカ女、そんな時は優しく言葉をかければいいのによ、バカにしやがっとさ!
「アンタ、何?」とさ!
そうしたらオメエ、ゲイは狂ったようにテレサを殴り始めたと!
それは凄い怒り方だったと!
鉄拳で顔から体からスンゲエパンチをボクサーのようにお見舞いしてよ。
鼻から血を出しても悲鳴を上げてもやめねえ!とまらねえ!
それまでゲイの股間は無言だったが、今や大木になってやがる!
男になったゲイはその大木をテレサに突き刺して今度は爆撃を始めやがった!
テレサの悲鳴が絶叫に変わる頃、ゲイの手には大きなナイフが握られ、そして彼女の胸に何度も突き刺した!
ゲイは笑いながら「このビッチ!メス豚!」と叫びながら刺し続けて腰の運動も止めねえ!!
何て事をしやがる!誰か彼女を助けてやってくれ!神様!!
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男の欲望が果てた時、テレサの生命も果ててしまった。
大量の血とテレサの白い肌が真っ暗な部屋に沈んで行く。
それはとても呆気ない結末だったとさ。
…テレサ、アンタってバカ女…いや、とても哀しい女だったよ… |
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マンハッタンの夜はよ、とても孤独なんだよ。
だから音楽と酒がなくちゃいけねえな。
『ミスター・グッドバーを探して』のサウンドトラックはよ、そんなマンハッタン、大都会の夜に相応しいんだよな。
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音楽のアーティ・ケインはよ1970年代からTVで活躍しててよ、有名どころでは『ロックフォードの事件メモ』('74)のエピソードのスコアを担当してるんだな。
映画ではフェイ・ダナウェイ主演の『アイズ』('78)、ジェームズ・ブローリン主演の『ジャグラー ニューヨーク25時』('80)などがあるが活躍はもっぱらTVだとよ。
1990年代は名指揮者として数々のサウンドトラックで指揮棒を振り回してたとよ。
特にジェームズ・ニュートン・ハワードが作曲した『ジュニア』('94)、『理由』『アウトブレイク』『ウォーターワールド』('95)、ダニー・エルフマンの『ミッション:インポッシブル』('96)、『メン・イン・ブラック』('97)の指揮は評価に値するさ。
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「ミスター・グッドバーを探して」ではケインは主題歌のみを作曲。
このテーマ曲をモチーフに全編、ほんのアクセントを付ける位の控えめで短いスコアを付けているとさ。
それでもオープニングのけだるくてやるせないサックスは「タクシードライバー」('76)のようでゾクゾクさせるぜ。
そして夜になるとその鼓動のように鳴り響く音楽は、1972年から1976年のソウル、ディスコ、AOR (アダルト・オリエンティッド・ロック)のアダルトでアーバンなナンバーの数々。
コモドアーズ、オージェイズ、ボズ・スキャッグス、ドナ・サマー、ダイアナ・ロス、ビル・ウィザーズ、テルマ・ヒューストンらのナンバーが、孤独な夜を生き生きと彩っているのさ。
使い方の巧さったら!テレサが夜のいかがわしいストリートを歩くシーンに流れるオージェイズの「Backstabbers」の映像とのフィット感は興奮ものだぜ!
こんな音楽演出はよ、当時としてはそんな斬新ではないけどよ、でもこんなミッドナイトな音楽演出は鋭いぜ。
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主題歌のやるせないバラードを歌うのはマリーナ・ショウ。
彼女は1972年頃からブルーノート・レーベルで数枚のアルバムをリリースした実力派のジャズ・シンガー。
彼女の深夜型の歌声が、この救いのない物語に見事にマッチしていたさ。
そうさ、疲れて一人、部屋に帰ったらマリーナの歌声が聞きたいね。 |
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「映画音楽はさ、オーケストラで奏でなきゃ!
サウンドトラック・アルバムはシンフォニックな曲が詰まってるのが好き!」
と一般的なサウンドトラック・マニアは異口同音に口を揃えるんだよ。
1974年からジョン・ウィリアムスがそのシンフォニック・サウンドで斬り込みを掛けたのが『タワーリング・インフェルノ』。
翌1975年に『ジョーズ』で世界の耳を虜にし、そして1977年、『スター・ウォーズ』で永遠のサウンドトラック・ボーイズを誕生させたのさ。
確かに、同じ1977年にリリースされた『ミスター・グッドバーを探して』のサウンドトラック・アルバムはそんなボーイズにとって耳を傾けるのも苦痛になるアルバムかもしれないのさ。
だって「既製のソングで埋もれたアルバムなんて!映画音楽じゃない!」と吠えるボーイズが多いのは事実だぜ!
だけど、それもまたいいんじゃないのか?
人間は二通りだぜ。
幸せなヤツ、不幸なヤツ。
背の高いのも居れば低いのも居る。
長髪に坊主。
ジキルとハイド。
王子様が助けてくれるレイア姫も居れば、ゲイにぶっ殺されたテレサも居るんだよ!
映画音楽のアルバム位、いいだろう?二通りあってもさ! |
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CBSコロムビア・レーベルからリリースされたサウンドトラック・アルバムは収録アーティストのレーベルを超越してコンパイルされた画期的なアルバムだ!
でもアーティストのレーベル関係でアルバムはアメリカ、カナダ、イギリス等、ワールド・ワイドにはリリースされなかったとさ。
日本では主題歌のシングルのみのリリースだぜ。
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アーティ・ケインの短いながらも2曲のオリジナル・スコアを収録されたアルバムは当時の「大人が聞くミュージック」を一枚に収めた時代を反映したアルバムとなっているのさ。
もはや映画を離れて一人歩きして、大都会で生きる一人暮らしの女性達が支持するアルバムとなったのさ。
実際、当時のマンハッタンのレコード・ショップではこのアルバムがショー・ウィンドウを飾り、ストリートを歩くニューヨーカー達の目を奪ったのさ。 |
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アルバム収録のナンバーは劇中の登場順とはバラバラに選曲され、ボズ・スキャッグスの1976年を代表する大ヒット・ナンバーの『Lowdown』はシングルのエディット・ヴァージョンで収録。
本編ではあまりにも地味なバラードだったマリーナ・ショウの主題歌、『Don't Ask to Say Until Tomorow』はアルバム用にもっとスタイリッシュなアーバンタッチのアレンジでレコーディング、ダイアナ・ロスの『Love Hangover』も別ヴァージョンで収録と何かと貴重なトラックがあるイキなアルバムなのさ。 |
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アルバムはたちまちベストセラー、カヴァーでは主題歌をピアノ・バラードでアレンジしたフロイド・クレーマーの演奏が聞きものだったさ。
数年後にはトゥーツ・シールマンスもハーモニカでカヴァーしていたとよ。
しかしCD化はとても遅く、1997年にソニー傘下のP.E.G.からひっそりとリリースされたが、あっという間に廃盤になったとさ。
あっけないのがテレサと似ているけどよ。
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この作品は、既製のアーティストのナンバーの契約問題等で現在でもDVDがリリースされないらしいとよ。
哀しいね。これじゃ死んだテレサが浮かばれないよ…
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「誰でももう一つの顔を持っている。
人目から永遠に隠してしまおうとする顔を。
傍に誰もいない時、そっと取り出しては一人で眺めるもう一つの顔を。
サテンや鋼鉄、シルクや皮でできた顔。
見た事もない顔だけど、僕らはみなそれをつけたがる…」
と1977年のヒット・ソングの歌詞同様、テレサも二つの顔を持っていた。
昼は聾唖学校の教師の顔。そして夜は男漁りの女の顔…
今ではそれがおかしいとは言わないさ。
だって人間だから。
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昼間は学校の教師、夜は女装が趣味。
おかしくはないさ、人間だから。
学校では秀才で可愛い女の子、夜はタバコと風呂上りのビール。
おかしくはないさ、人間だから。
大会社の社長も夜は赤ちゃん言葉。
おかしくはないさ、人間だから。
社内の憧れの美人OLも夜は自宅周辺の子猫をイジメ倒す!
おかしくはないさ、人間だから。
人間、皆二つの顔を持ってるんだからさ。 |
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大都会に散った女、テレサ。
一人夜遅く帰宅しても、ガランとした部屋には誰も「おかえり」と言う人はいない。
亀も居ない!(by ロッキー)
そんな孤独という悪魔に魅入られた女、テレサ。
決して悪い女ではないよ。
愛読書はマリオ・プーゾの『ゴッドファーザー』だしさ。
大都会で一人の女がぶっ殺されても誰も何も思わないのが、病んだ都会のルールと言ったらあまりにも哀しい。 |
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今ではこう思う。
彼女は生きる場所をちょっとだけ間違った哀れなお嬢さん。
生きるのが他人よりちょっと下手だっただけ。
言葉が少し足りなかっただけ。
自分自身を見つめる鏡を持ち忘れたおバカさん。 |
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…テレサ、君の事を誤解してたけど…
忘れられない…部屋のビードロにパンチする君、
自転車の空気入れを抱えて電話する君、
『ゴッドファーザー』のペーパーバックをいつも持ち歩く君、
とても女の部屋とは思えないトコに住んでいる君が…忘れられない… |
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