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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Death Wish
主演 チャールズ・ブロンソン
監督   マイケル・ウィナー
音楽・作曲・指揮・演奏   ハービー・ハンコック
 
 

 1974年・ニューヨーク。
 そこは夜は絶対に一人では歩けない、世界最大の犯罪都市だった。

 

 そんな街で、冬のある日に起きた不幸な事件によって、平凡な一人の男が、一匹の狼に変身するのだった…

 平凡な中年の開発技師、ポール・カージー、53歳。
 中産階級の典型的なサラリーマンだが、それなりに幸せだった。
 一人娘は嫁ぎ、妻とはたまに旅行する位のささやかな贅沢。
 それほど広くは無い、アパートもポールには快適だった。

 

 そんなある日、ポールは一本の電話で凍りついた。
 それは娘の夫からだった。
 なんでもポールの妻と娘が、スーパーの帰り道に尾けて来た極悪非道なチンピラどもに襲われたという。
 急いで病院に駆けつけたポールだったが、無情にも妻は死亡、そして娘は重傷のショックで廃人寸前になってしまっていた。
 愕然とするポール。

 「俺は今まで真面目に働いて生きてきたのに…何故だ…!」


 妻の葬儀後、ポールは悲しみを忘れる為に仕事に打ち込んだ。
 そんな姿を見かねた社長は、ポールにテキサスへの出張を命じた。
 テキサスでの仕事の間、現地の仕事仲間がポールを射撃場に案内し、ポールに言った。

 「大都会では銃を恐れるが、ここでは誰でも持ってる。
 だから夜、通りを一人で歩いても平気さ。
 強盗なんざ即、あの世送りさ。」

 銃を握ったポールは、心の奥底に何か燃え上がるマグマのような物を感じるのだった。

 

 ニューヨークに帰る時、テキサス野郎は土産として小さな箱をポールに手渡した。
 「ま、つまんないモンだけどよ。家で開けてレンジでチン!して食べてくれや。」
 ポールは
 「何だ、食い物か。食欲なんて無いのにな」
 と思いつつもその箱をバッグに詰めて帰路に就いた。

 ニューヨークへ戻ってみると、あろうことか娘は植物人間になっていた。
 湧き上がる新たな悲しみと怒り。
 ポールは酒に逃げるつもりで、テキサス野郎のくれた土産の箱を開けた。

 

 ところが中に入っていたのは冷凍食品のピラフでは無く、シルバーに輝くリボルバーの拳銃だったのだ!
 それを手にしたポールは悲しみが消え去り、怒りを全身からぶちまけたくなる欲求にかられた!
 フラフラと夜の街を歩き出すポール。
 しばらく歩くとチンピラが
 「おい、オッサン!金出しな!言う通りにしねえとブッ殺すぞ!」
 とナイフをポールに突きつけた。
 しかし振り返ったポールの右手にはリボルバーが握られていた。
 無言で引き鉄を引くポール!ブッ殺されるチンピラ!

 
 そのまま急いで帰宅するや、「おぇぇ!」と激しく嘔吐するポール。
 それはもちろん夕べの賞味期限切れの牛乳のせいではなく、初めての殺人の恐怖のために嘔吐したのだ。
 しかし、不思議と翌朝の目覚めは良かった。人を殺したというのに…
 さらにポールはその日から自ら囮となり、夜の街でチンピラや犯罪者を誘き出してはブッ殺し始めたのだ!
 ある夜は地下鉄の車内。ある夜は公園。そして人影の無い路地裏などで次々と夜の街に蔓延るクズどもを処刑して行ったのだ!
 
 

 そのうちマスコミが騒ぎ始めた。
 「一体誰が?なぜ犯罪者ばかりを?」
 「街のダニを駆除してくれて有難う!」

 と新聞・ニュースでは騒然となっていた。
 ポールはいつの間にか「闇の仕置き人」となっていたのだ。

 しかし犯罪者といえども殺人は犯罪。当然のことながら、警察が動き出した。
 捜査担当はベテランのオコア警部だ。
 彼は嘆きながら
 「どこの誰や?勝手にボンボン殺したらアカンやないか!
 世の中に法律っちゅうもんがあるんやで!」

 と部下に激を飛ばして捜査を開始した。

 捜査の結果、ポールが捜査線上に浮かび上がった。
 しかしオコア警部は署長と検事からこう言われた。
 「チミィ、今はヤツのお陰で街の犯罪が減ってるんだよ。
 このままヤツを逮捕したら市民が黙っとらんじゃないか。
 ここはオコア君!どうか一つ、大人の事情ってことで!」

 もっとも、オコアもポールの身の不幸を考えると逮捕する気にはなれなかった。

 
 

 そんなある日、ポールはチンピラの逆襲に逢い、撃たれて入院した。
 現場に残されたポールの指紋の付いたリボルバーを巡査がオコアに差し出した。
 「警部!これが闇の仕置き人の銃です!これで逮捕できますね!
 しかしオコアは巡査に
 「なんやと!これのどこが銃やねん!大人のオモチャやんけ!
 オマエの目は腐ってるんか!ボケェ!」
 と叫んだ。
 「で、ですが警部!これは…」
 「あー!事情のわからんヤツ!空気読め、空気!忘れるんや!いいな!」
 「は、はい…な、何も…見て…ません…」

 

 ポールのリボルバーを持って病院に見舞うオコア。

 「ええか。我々は何も見てへんし、何も知らん。そのかわりゆうたらなんやけど…アンタどっか別のトコへ行っておくれやす。そしたらこの証拠品は河に捨てますわ。よろしゅうおまっか?

 「…分かった。」

 

 数週間後、傷も癒えたポールは新天地・シカゴの空港に降り立った。
 だがその空港にもチンピラどもがのさばっていたのだ。
 チンピラどもに突き飛ばされた女性の荷物を拾い上げながら、ポールはニヤリと笑い、指で銃の形を作り、チンピラどもに狙いを定めた。

 「ゴミどもは俺が始末する…」

 闇夜のストリートに復讐の狼が舞い降りた!

 音楽を担当したハービー・ハンコックは、1974年当時、黒光りのするジャズ、ファンク、ソウル、ロックのカテゴリーを超越した、いわゆるクロスオーヴァー・ミュージシャンの最右翼だった。

  しかし、なぜ彼が『狼よさらば』のスコアを担当したのか?当時ならばラロ・シフリン、ジェリー・フィールディング辺りが適任なのだが…。何より監督のマイケル・ウィナーはフィールディングとは名コンビで知られ、『追跡者』('70)、『チャトズ・ランド』『メカニック』('72)、『スコルピオ』('73)で組んでいたほどであるにも拘わらず、である。

 恐らくはハンコックを希望したのは、製作の最高責任者であるディノ・デ・ラウンレンティスの意向であろう。何故なら『狼よさらば』はラウレンティスがニューヨークで製作した『セルピコ』('73)に続く作品であり、ニューヨークに相応しいタレント性のあるミュージシャンを起用したのであろうと想像出来る。音楽でも話題をさらい、サウンドトラック・アルバムをリリースしてガンガン売ればいいと。
 さすがは商売人のラウレンティスである。

 

  当時34歳のハンコックは7歳でピアノが弾けて、4年後にはモーツァルトのピアノ協奏曲二長調をプレイ出来るといった伝説を持つ、ナチュラル・ボーン・ピアニストだった。高校で友達がジャズを演奏したのを聞きジャズに開眼、大学ではジャズ・バンドを組んで演奏。そして作曲、編曲もマスターした。

 卒業後、シカゴで様々なジャズ・クラブで演奏し大物ジャズ・メンのコールマン・ホーキンズともプレイする。運が開き今度はドナルド・バードに認められ彼のグループのピアニストとしてニューヨークに渡った。この時期、1963年には名曲『ウォーター・メロン・マン』を作曲。そしてマイルス・デイヴィスのコンボに加入した。さらに腕を磨き1967年にはミケランジェロ・アントニオーニ『欲望』で初めての映画音楽を担当。
 「映画の音楽は、私にとって初めての経験だったが、私はそこから多くのことを学んだのだ。」
 とハンコックは語る。

 

  1968年にはマイルスのコンボを脱退し、自身のグループを結成して活動。アルバムもリリースして脚光を浴び、さらにそのグループも解散させて1973年にリリースした『ヘッドハンターズ』が大ヒットしたのである。
  その後も『スラスト』などのアルバム・リリース、コンサート活動、そして映画音楽もノーマン・ジュイソンの『ソルジャー・ストーリー』('84)、『ラウンド・ミッドナイト』('86)、『アクション・ジャクソン 大都会最前線』('88)、デニス・ホッパー監督作『カラーズ 天使の消えた街』('88)、『ハーレム・ナイト』('89)などを担当している。

 
  『狼よさらば』のスコアはビターなテイストのインプロヴィゼーション・ジャズで都会の闇を描写。ハンコックのエレクトリック・ピアノの響きがメロウで主人公の悲しみを聞かせている。スリリングなアクション・シーンのスコアは、ちょっとラロ・シフリンの『ダーティハリー』('71)を思い起こさせるようで、当時のシティ・アクションのスコアのハードさを感じさせて痺れるのである。

 1974年当時の男子は皆、持っていたぞ!
 勿論、マンダムと『狼よさらば』のサウンドトラック・アルバムを!

 

  コロンビアからリリースされたアルバムは、ハンコックがアルバム用に編曲した『メインタイトル』と、オープニングのポール夫婦のバカンス・シーンや劇中、そしてエンド・タイトルにも流れた『ジョアンナのテーマ』を大胆なアレンジで再レコーディングして収録。この2曲の演奏が素晴らしい。『メインタイトル』の70'sクロスオーバー、「ジョアンナ」のメロウなタッチから派手なファンク調に変貌するカッコよさ!

 

 この2曲で既にお腹いっぱい!だが、その他のスリリングなストリート・ミュージックも聞きものだ。ハンコックは意外にもアンダー・スコアに徹しており、決してでしゃばらずにシリアスにスコアを付けているのがやや意外にも感じられる。テキサスのシーンにはちゃんとカントリー・ミュージックを流す芸の細かさで、本当の意味での「映画音楽」を聴かせている。

 アルバムのもう一つのハイライトは『SUITE REVENGE』だ。この曲のハードさはちょっとジェリー・フィールディングを感じさせて、マイケル・ウィナーのさすがの音演出と嬉しくもなる。

 
 

 アルバム・プロデュースはハンコックとデヴィッド・ルビンソンがあたり、カリフォルニアのバーバンク・スタジオとサンフランシスコのスタジオでレコーディングされた。そしてアルバムは世界各国でリリース。日本のCBS SONY盤はジャケット違いでの発売となり、そしてシングルでもリリースされた。日本では全く売れなかったがアメリカではベストセラーとなり、ロー・プライスのヴァリュー盤として定番となっていた。1980年代にはジャケットを NYの摩天楼に変更して「ハンコックのアルバム」としてベストセラーを続けた。

 
 しかしCD化は遅く、1996年にイタリアのLEGENDよりようやく初CD化。後にアメリカのCBS傘下よりリリースされたが、日本では現在まで未発売のままである。願わくば(WISH!!)コンプリートでのCDリリースを期待したい。

 出さないとポール・カージーが怒りの銃弾の雨を降らせるぜ!!

 願わくば(WISH!!)、ここからはOVER 40の方は大塚周夫の声色で読んで頂きたい(森山周一郎でもいいが、願わくば(WISH!!)大塚さんでお願いしたい)。

  あの近くて遠い1974年。当時の日本で大人気の男性海外スターといえば、アラン・ドロンロバート・レッドフォードポール・ニューマン(合掌)、ジュリアーノ・ジェンマなどだった。そう、彼らは圧倒的に女子の支持を得たイケメン達だった。しかし彼らとは全く異なり圧倒的に男子の支持を得たスター…いや、がいた。その漢こそ我らのチャールズ・ブロンソンだ!

 

  何故、ブロンソンが当時支持を得たか?それは彼のマスクが個性的な「ブサメン」だったからだ!シワクチャのオッサン顔、小さくて細い目、怪しいチョビ髭、手入れしていない無愛想なヘアー・スタイル。そう、我々男子は歓喜の声を上げたのだ、「ワシらの仲間やんけ!!」と!

 
 しかしブロンソンは軟弱なブサメンではなかった。少年時代から炭鉱夫レンガ職人として働き、第二次大戦中はB-29に乗って日本上空も飛んでいた、筋金入りの、鋼鉄のような漢だった。生身の筋肉のスゲェ肉体でタフガイ・スターとして活躍していたのだ。日本では男性化粧品(マンダム)のCMに出演。当時、子供でも知っている有名スターだったブロンソン。

 ブロンソンは日本男子の目標でもあった。どう転んでもドロン、レッドフォードにはなれないが、「ブロンソンならなれる!近づける!」と夢と希望と漢の目標!を日本中に与えたのである!

 

 よってこんなブロンソンは見たくない!!

 その1. 失恋して「んだよもぅぅぅ!」と泣き崩れるブロンソン。

 その2. 『さらば友よ』の必殺技、グラスのコイン入れをキャバクラで披露して「おっちゃん、意味ねーじゃん!」とキャバ壌から集中砲火を浴びせられるブロンソン。

 その3. 合コンで「キミの名はなんてんだい?ラブラブ。」とキメるも「おっちゃん、きもーい!」と女子大生から男の自尊心を傷つけられるブロンソン。

 その4. 新入社員のOLに『雨の訪問者』で披露したクルミのガラス割を見せるも「チミィ、困るんだよ!ガラスも会社の財産なんだからね!給与から引いとくよ!」と部長に怒鳴られるブロンソン。

 その5. 夜、寝る前に富士見ロマン文庫を「ムハハ!」と読破するブロンソン。

 その6. アイドルの握手会・イベントに『レッドサン』の格好で最前列に並ぶブロンソン。

 

 …こんなブロンソンは想像出来ない!『狼よさらば』当時は53歳のブロンソン。1980年代以降は「B級専門」になってしまったが、今でも我々、男子の魂に宿っているブロンソン。

 ブロンソンのライフワーク、ポール・カージーも現在でも我々を叱咤激励している。

 「ブロンソン知らずして何が漢ぞ!
 漢は黙って一発、撃つべし!
 漢は永遠の夢を願う(WISH)べし!」