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Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

Cinderella Liberty
主演 ジェームズ・"Thief"・カーン
マーシャ・"Goodbye Girl"・メイソン
監督   マーク・ライデル
音楽   ジョン・ウィリアムス
作詞・歌   ポール・ウィリアムス
 なあ、シンデレラって真夜中の12時には帰らないといけなかったよな…
 そう、奴らと同じじゃねえか…海軍の水兵達とよ!
 「シンデレラ・リバティー」ってのは、海軍のスラングで、真夜中の12時に終了する外出、自由時間を意味するとさ。

 …この世に男と女が居る限り、様々なドラマが始まるとさ。
 愛し合い、憎みあい、そして別れても、ドラマは終わりを告げないのさ…
 
 

  とある港に上陸した米海軍の水兵、ジョン・バッグスがふらりと入った酒場でドラマは始まったとさ。
  そこには水兵相手に賭けビリヤードをして体も売るアバズレ女のマギーが居たのさ。
  早速、バッグスにその体を売ったんだが、何故かお人好しのバッグスだけには心を許したのか、自ら荒れた生活の話を聞かせたとさ。
  マギーは父親の分からない11歳になる黒人とのハーフの息子・ダグを抱えて安アパートで貧乏生活。
  おまけに彼女の腹にはまたもや父親不明の子を宿して、毎晩、体を売って生活していたとさ。
  そんな親子に対してとことんお人好しのバッグスは、彼らに同情して助けてやりたいと思ったとさ。

 

  バッグスは17才で海軍に入隊した筋金入りのタフガイ。
  彼は海軍に生き甲斐を見出し、そこが自分の家庭としての安息の場と思っていたとさ。
  けれどマギー一家の面倒を見るようになってからは、彼の考え方は次第に変化してきたとさ。
  バッグスは、マギーの息子を遊びに連れ出し、虫歯を治させて給料を全てこのマギー親子に費やしたとさ。
  最初は、バッグスの事をただ単に金をくれる体目当てのバカと思っていたマギーも、バッグスに対する思いが変化してきたとさ。
  ますます本当の家庭のあり方や、それを維持する責任の重さや喜びを、日々感じるバッグス。
  そして彼女一家を全て受け入れ、家庭を持つ決心もしたとさ。
  けれどその時から、すこしずつシンデレラの時間切れが迫っていたのは、神ならぬ身の知るよしも無かったのさ。

 
 

  バッグスは自分の時計までも質に入れて金を工面してマギー親子を助けていたが、結婚を報告した海軍の上官は激怒したとさ。
  「売春婦と結婚したいだと?この我が海軍を恥さらしにする気か?絶対に許さん!」
  とアッサリ却下。
  しかし彼はあきらめず、今度は市長に訴えたとさ。
  「やっぱり私達は駄目ね!」とふさぎ込むマギー。
  お互いの気持ちは一致していても現実が重くのしかかってきたとさ。
  でもバッグスには未だ希望があったとさ。
  もうすぐ生まれるマギーの赤ん坊だ。
  マギーの希望で出産に立会い、無事生まれた赤ん坊は、やがて病院で死んだとさ。

 
 

 荒れて酔いどれ生活に浸り、元の売春婦に戻ったマギーにはもうバッグスの言葉は、耳に入らない。
 「もう消えてよ!アンタの夢物語は、もうウンザリなのよ!
 「でもマギー、俺たちの結婚の為に大統領に手紙を書いたんだよ!」
 「このF**K野郎!バッグス!アンタなんか大嫌いよ!」
 怒り狂ってバッグスの大統領宛の手紙をビリビリに破って部屋を飛び出すマギー!
 その後姿にお人好しのバッグスが、ついにキレた!

 「さのば・びっち!さのば・びっち!!!」

 しかし雨の中をさまよったバッグスの、その揺ぎ無い決心には変化はなかったとさ。
 絶対、あの親子を幸せにしてみせる!と決意を新たにしたとさ。
 今ではバッグスに懐いている息子ダグを残して、マギーがニューオリンズに逃げたと知るまでは…

 

 

 ある日突然、マギーは置手紙を残して消えたとさ。
もう今の生活を忘れて新天地で新たなオトコと出直すとさ。
  さすがのバッグスもこれにはショックだった。
 もうこれで全て終わりと思ったとさ。
 だが泣きじゃくるダグに
 「いいか、俺は明日の朝には船に戻らないといけないんだ。どこか外国に行くらしい。軍の命令なんだ。どうしようもないんだ!
 なけなしのわずかな金をダグに渡しながらも
 「これで旨い物でも食え。…だが、明日の朝7時には港に来てくれ。いいか、約束だぞ!」
 と言って部屋を飛び出すバッグス。

 
 
 …翌朝、港に現れたダグの目の前には船に乗り込む水兵たちだけだっだとさ。
 騙されたと思って帰ろうとするダグの肩を引き寄せたのは海軍を脱走したバッグスだった。
 彼は目を丸くして驚くダグにこう言ったとさ。
 「お前、エビは好きか?ニューオリンズはエビが旨いらしい。エビを食いにいこうや!」
 と明るく言ったとさ…
 
 

 …その後のバッグスとマギーはどうなったか?
 それは誰も知らないのさ。
 無事、巡り合えたって?
 それも誰も知らない。
 …でも風の噂では仲良く暮らしているとか…
 そして数年後、バッグスはシカゴに移住して中古車ディーラーを開業したとか…
 でも夜はイリーガルな仕事をして、真夜中のアウトローと呼ばれているとか…
 全て風の噂、だけどさ…

 


 ジョン・ウィリアムスに対して、今更何か言う事があるだろうか?
 アメリカを代表する映画音楽のベテラン?
 大ヒット作を多く手がけた?
 スティーヴン・スピルバーグとの名コラヴォレーション? 
 現在の映画音楽界の長老?
 …いや、そんな言葉だけではジョン・ウィリアムスは語れない…

 確かに1960年代から約半世紀に渡って活躍するフィルム・スコア・コンポーザーの唯一の生き残りとなったウィリアムス。
 60〜70年代を共に活躍した同志達は、もうほとんどが居なくなってしまった。
 特にずっと比較されて、お互いに競い合い、ファンも二分して来た良きライヴァルにして同志、むしろ戦友とも言えるジェリー・ゴールドスミスも、天国に行ってしまった。
 そう、ウィリアムスとゴールドスミスの関係は、役者で例えるならば、50年代のカーク・ダグラスとバート・ランカスター、60年代ならスティーヴ・マックィーンとクリント・イーストウッド、或いは70年代以降ならアル・パチーノとロバート・デ・ニーロ!といったところか。
 お互いの意識とは別にしてとにかく1960年代から2000年代の前半までは、ウィリアムスとゴールドスミスが、アメリカ映画音楽を支えて来た事は間違いないだろう。

 

 1973年に製作された『シンデレラ・リバティ』のスコアは、今改めて聞くとこのブルージーなジャズ・テイストの音色に驚きがある。
 語弊があるかもしれないが、このスコアからどうしてもウィリアムスのパーソナリティは聞こえて来ない。
 まるで当時、デーヴ・グルーシンあたりのジャズ系の作曲家がその才能を発揮したとも思える。
 監督のマーク・ライデルとは『華麗なる週末』('69)、『11人のカウボーイ』('71)に続くコンビ作品だが、よく考えてみるとウィリアムスは、1950年代はジャズ・ピアニスト兼作曲家として活躍しジャズ・シーンのコンサートや数々のレコーディングをこなしていたのだ!

 

 そしてこのブルーなジャズは『ロング・グッドバイ』('73)でその片鱗を聞かせた後、本作から『アイガー・サンクション』('74)、『大地震』('74)へと受け継がれて行くのである。
 しかし『ジョーズ』('75)、『スター・ウォーズ』('77)からは現在一般的に想起されるようなウィリアムスのカラーに染まるのだ。
 1970年代のウィリアムスには繊細なスコアの『ペーパー・チェイス』('73)、『続・激突 カージャック』('73)があり、『タワーリング・インフェルノ』('74)にもジャズ・テイストのラブ・テーマが聞こえていた。

 

 現在のスタイルであるシンフォニックなスコアリングに耳慣れた今、この時代のウィリアムスをもう一度聞くのには確かに勇気がいるかもしれない。
 でもこの時代のテイストもまた、忘れらないのだ。

 心が乾いた時…
 どうしようもなく酔いたい時…
 孤独感に支配されて誰かととにかく話したい時…
 そんな夜は誰にでもある…
 そんな夜は、このサウンドトラック・アルバムと共に長い夜を過ごしたいもの…

 

 20世紀FOXよりリリースされた12曲入りのこのアルバム。
 聴けば聴くほど酔いしれる、オールナイト・ロングの70's深夜型アルバムの傑作だ。
 テーマ曲の「Nice to be around」様々なアレンジで本編に流れるが、この曲はブルージーなメロディでとてもいい。
 男と女のロンリネスとセンチメンタルなトーンが語られるこのメロディ!
 この曲に惚れない輩とは酒は飲めないぞ!

 

 ウィリアムス自身が弾く()エレクトリック・ピアノの心地よさにブルーなハーモニカを聞かせるのは、ベルギーが生んだ天才ハーモニカ・プレイヤーのジャン・”トゥーツ”・シールマンス
 彼は『真夜中のカーボーイ』('69)でもそのハーモニカで我々を魅了。そして『ゲッタウェイ』('72)、再びウィリアムスと組んだ『続・激突 カージャック』などで活躍。

 

 テーマの「Nice to be around」「Wednesday Special」の2曲を作詞、歌うのはポール・ウィリアムス
 ポールは当時は新進のシンガー・ソング・ライターだが、その後、『ファントム・オブ・パラダイス』('74)、『ダウンタウン物語』('76)等で大活躍していた。
 この二人の名プレイヤーが奏でる美しいストリングスとジャジーなアレンジでこの孤独なスコアを援護。
 ここにただの甘ったるいサウンドだけではない、ビター&スウィートな「酸いも甘いもかみ締めた大人」のアルバムが、1970年代の半ばに誕生して人々を癒していたのだ。

 

 その後このスコアを高く評価されて1973年度のアカデミー賞のオリジナル・スコアと主題歌でダブル・ノミネート
 惜しくもその2部門は『追憶』にさらわれた。
 そのせいではないだろうが、アルバムの売れ行きは芳しくなかったようだ。
 しかし主題歌の「Nice to be around」だけはその後一人歩きしていく。
 ポール・ウィリアムス自身もライブでも歌い、後にセルフ・カヴァーしてアルバムに収録。
 『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』の主題歌を歌ったモウリーン・マクガヴァンのヴァージョンは、全米チャート101位にランク。

 
 他にはジャズ界の大御所、ローズマリー・クルーニーアール・クルーヘレン・レディジョニー・マチス他、あらゆるジャンルのアーティストが、違った味わいでカヴァーする隠れた名曲となっている。
 この歌はバッグスの心を歌った「男側」の歌詞だが、女性アーティストが歌うとマギーの「女側」の心を歌うという、リバーシブルな素敵な歌詞なのである。
 特にローズマリー・クルーニーの切々と歌うヴァージョンは、人生に疲れ、幻滅した中年女性のふと漏らす吐息のようで思わず耳を奪われる。
 ウィリアムスの曲で真に多様なジャンルを越えたアーティストにカヴァーされているのは、この「Nice to be around」だけだ。
 

 リアル・タイムは20世紀FOXよりアルバムがリリースされ、シングルは「Nice to be around」が、シールマンスとモーリン・マクガヴァンのヴォーカルとのカプリングでリリース(ポールは契約の関係でカップリング出来ず)。
 その後、リイシューは全くなく、突然1984年に日本で「FOXレーベルの名盤・復活」としてリイシューされた。
 CD時代に入ってもオフィシャル・リリースは無く、もっぱらブートレッグのマニア向けのみだったが、ようやく2008年にINTRADAより限定盤ながらオフィシャルな形でCDがリリースされた。

 

 時々、真夜中にどうしても聞きたくなるアルバムとはまさにこのアルバムである。
 何も考えずに窓の外の夜景を眺めながら聴きたくなるもの。
 理由なんて無い。
 心が乾いたか?
 孤独が身に染みるのか?
 そんな事はどうでもいい。
 でも今夜はずっと、夜通し聞きたい。
 このアルバムだけを。

 「神に背を向けた人々が神への信心をとりもどす話」と語るのは『シンデレラ・リバティ』の原作者のダリル・ポニクサン
 その昔、神が人間を創造した時、人間は「男女一体」だったが、その後、神の怒りによって人間は「男と女」にバラバラにされたという。
 よって人間とは男と女が本来の一体化であるように互いを求め合う生き物になったらしい。

 

 バッグスとマギーも一体化を望み、そうしようとするが、運命の定めか、そうは行かない。
 体の関係は結んでも心は一体化しない。
 ズレが生じて、そのズレは修復出来ない程に歪んでいく。
 女の過去を一掃したい考え男の現状維持を推し進めたい頑固さが、永遠の男女のテーマだ。
 人間、心の奥深い部分は、誰にも分からない。
 この映画は、そんな男女の心のズレをえぐり出す。
 バッグスとマギー、どちらが悪い訳でも正しい訳でもない。
 ただボタンの掛け違いを正そうとしないか、新たなボタンを付けようとしただけなのだから。

 

そうさ、男と女の明日なんて分からないもの。
雨もあれば晴れもあるさ
…ただ信じて疑わずに…
希望を持って…

…ハロー、なんて簡単な恋の始まり!
飛び上がってどれだけ愛してるか言おうか!
僕のこと狂人だと思う?
それともおバカな道化者?
ちょっとセンチなバカから愛をこめてハロー!

自分のルールを壊してしまったキュートな君に!
他の人たちとハイになるのってバカげてるよ。
君がそばにいるのが素敵な時!
君がいないと世界はブルーだって言おうか? 
古いラブ・ソングから素敵な言葉を思いだしたよ!
でも、ああ、それを愛だなんて呼んだことがないのさ!

君と一緒、こんな気持ちは初めてさ!
ああ、最高の時って長くは続かないんだね!
お互いの優しさも過去のものになってしまう。
でも僕らの見つけた感情は特別なもの。
君がそばにいるだけで素敵な気分さ!
君がそばにいるだけで。

by Paul Williams