20世紀FOXよりリリースされた12曲入りのこのアルバム。
聴けば聴くほど酔いしれる、オールナイト・ロングの70's深夜型アルバムの傑作だ。
テーマ曲の「Nice to be around」が様々なアレンジで本編に流れるが、この曲はブルージーなメロディでとてもいい。 男と女のロンリネスとセンチメンタルなトーンが語られるこのメロディ! この曲に惚れない輩とは酒は飲めないぞ!
テーマの「Nice to be around」と「Wednesday Special」の2曲を作詞、歌うのはポール・ウィリアムス。
ポールは当時は新進のシンガー・ソング・ライターだが、その後、『ファントム・オブ・パラダイス』('74)、『ダウンタウン物語』('76)等で大活躍していた。
この二人の名プレイヤーが奏でる美しいストリングスとジャジーなアレンジでこの孤独なスコアを援護。
ここにただの甘ったるいサウンドだけではない、ビター&スウィートな「酸いも甘いもかみ締めた大人」のアルバムが、1970年代の半ばに誕生して人々を癒していたのだ。
その後このスコアを高く評価されて1973年度のアカデミー賞のオリジナル・スコアと主題歌でダブル・ノミネート。
惜しくもその2部門は『追憶』にさらわれた。
そのせいではないだろうが、アルバムの売れ行きは芳しくなかったようだ。
しかし主題歌の「Nice to be around」だけはその後一人歩きしていく。
ポール・ウィリアムス自身もライブでも歌い、後にセルフ・カヴァーしてアルバムに収録。 『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』の主題歌を歌ったモウリーン・マクガヴァンのヴァージョンは、全米チャート101位にランク。
他にはジャズ界の大御所、ローズマリー・クルーニーやアール・クルー、ヘレン・レディやジョニー・マチス他、あらゆるジャンルのアーティストが、違った味わいでカヴァーする隠れた名曲となっている。
この歌はバッグスの心を歌った「男側」の歌詞だが、女性アーティストが歌うとマギーの「女側」の心を歌うという、リバーシブルな素敵な歌詞なのである。
特にローズマリー・クルーニーの切々と歌うヴァージョンは、人生に疲れ、幻滅した中年女性のふと漏らす吐息のようで思わず耳を奪われる。
ウィリアムスの曲で真に多様なジャンルを越えたアーティストにカヴァーされているのは、この「Nice to be around」だけだ。
リアル・タイムは20世紀FOXよりアルバムがリリースされ、シングルは「Nice to be around」が、シールマンスとモーリン・マクガヴァンのヴォーカルとのカプリングでリリース(ポールは契約の関係でカップリング出来ず)。
その後、リイシューは全くなく、突然1984年に日本で「FOXレーベルの名盤・復活」としてリイシューされた。 CD時代に入ってもオフィシャル・リリースは無く、もっぱらブートレッグのマニア向けのみだったが、ようやく2008年にINTRADAより限定盤ながらオフィシャルな形でCDがリリースされた。