第1回〜第10回 第11回〜第20回 第21回〜第30回
第31回〜第40回 第41回〜第50回 第71回〜第80回
第51回   第52回   第53回   第54回   第55回   第56回   第57回   第58回   第59回   第60回
第61回   第62回   第63回   第64回   第65回   第66回   第67回   第68回   第69回   第70回
 
Goodfellas House Choose One!

ちょっとしたサウンドトラックとその作品についてのコラムです...

トランス 愛の晩餐 ウォーゾーン 虐殺報道
主演   アル・パチーノ
脚本 オリヴァー・ストーン
監督   ブライアン・デ・パルマ
音楽 ジョルジオ・モロダー
 
監督   オリヴァー・ストーン
音楽 ロビー・ロバートソン
リチャード・ホロウィッツ
ポール・ケリー
 「お前の名前は?」
 「アントニオ・モンタナ!」
 入国審査官に威勢よく吠える男モンタナ、通称トニー狂犬のごとくに裏街道を突っ走る、暴走機関車人生が始まった!
 

 キューバの犯罪者トニーは明日のことなんか考えない。
 直感で生き抜く。
 すぐ頭に血が上り、突っ走る。
 正業に就くことなんてまるで考えてない。
 政治犯の暗殺なんて小手先の仕事だ!
 早速、真夏のビーチでナンパならぬ白い粉の回収!
 ついでに電動ノコギリおじさんを返り討ちで血祭りに!

 
 そんなこんなで 「…オメーいい度胸してンな!」とスカウトされ、早速フロリダの白い粉販売業の元締め・フランクの下で働くトニー!
 しかしトニーは真面目に働かずドンドン暴走!
 しまいにゃ社長のオンナ・エルヴィラに目を付けてちょっかいを出しはじめ、さらには白い粉の卸元と「生産者直販売」のダイレクト・ビジネスの話もまとめてしまう!
 
 

 怒った社長の刺客もなんのその。
 遂にはフランク社長もあの世に速達・代金着払いで送りつけ、社長のオンナだったエルヴィラも無事ゲット!
 『世界はオマエのもの』を自身の座右の銘として頂点に立ったトニー。
 しかし一旦頂上に上り詰めたトニーは、階段を転げ落ちて行く…

 でもいいんです。
 自分のオカンに「オマエなんか生むんじゃなかった!」と吠えられても。
 毎日、本気で生きぬければ。
 明日なんて信じない。
 今だけが人生。
 「オレは嘘を言う時も本気だ!」と言いきるトニー。

 
 
 どん底の野良犬からマイアミの頂点に立ったトニーの最期は、まるで打ち上げ花火のような人生。
 でも、いいんです!
 ベッドの上で悶え苦しむ最期なんかより、夜空に吠えて華々しく散る方が…
  …男の憧れ・トニーのように、最期はド派手な打ち上げ花火を上げたい…

 

 …もしトニーが豪邸で井上陽水(似の殺し屋)にショットガンで撃たれず、三途の川も泳ぎきっていれば一体どうなっていたか…

 
 Yeah!トニーは死んではいなかったぜ!
 奴は白い粉業は廃業してフロリダに留まり、トニー・ダマトとしてマイアミ・シャークスというプロフットボールチームの監督になっていた!
 熱い性格は変わらずのトニーだったが、彼も中年期に差し掛かり嫁はん(エルヴィラやない)にも逃げられ、4年前にはリーグ優勝も果たしたのに今は連敗、観客減でドン底。
 しかし昔のようにここらで白い粉で奮起!…とは今のトニーは考えないのだった。
 しかし若き女性オーナーからは「この化石の石頭!」と怒鳴られ、若い選手からもオッサン扱いされる始末。
 
 

 完全に時代遅れのオッサンとなったトニーだが、その熱い血は健在だった。
 フットボールの為には死んでもいい!とその男気に惚れた、若き無名選手の活躍でドンドン快勝を重ね始めるチーム。
 ところが件の女性オーナーはトニーを降板させてチームを大金で売っぱらおうと水面下で動き始める。
 チームの選手達もトニーの降板やチームの身売りの噂も感じ始めた。
 このままではチーム崩壊、自身の男気も奪われてしまう。
 絶対絶命のトニーは、試合前の選手達に熱い説法をブチかます。
 トニーの行く末は?
 マイアミに明日は来るのか?

 
 …修羅場を潜り抜けた来た男が、最後に微笑を浮かべていた…
 トニーは死なずしてマイアミを去っていったのだった…

 1983年の初公開時には罵声を浴びた『スカーフェイス』
 音楽の方も作品程では無いが、某デ・パルマ・マニアの批評家からは
 「まるで『フラッシュダンス』以下の楽曲でお茶を濁す、ジョルジオ・モロダーの音楽は許しがたい!」
 …なんて声もあった。
 後年カルト化し、作品の評価がガラリと変わってからも、音楽だけの評価が非情にも手厳しい。
 「チープなディスコ・ミュージック」だの「音楽だけが…」だの…

 やかましいっ!
 戯言はもう聞き飽きたわ!!

 

 ちゃんと映画を見ていればわかるが、なにも『フラッシュダンス』のようなポップ・ソングがガンガンと流れるわけでもなく、モロダーのシンセサイザーのスコアは決して鳴り過ぎないのだ。
 元々デ・パルマが意図した音演出としては、きらびやかなバビロン・クラブに集まるセレブ達が踊り狂いコカインが舞い散るその場所に相応しい音楽―
 それを具現化したモロダーの手によってデビー・ハリーエーミー・ホランドらのダンス・ミュージックが鳴り響くのだ。
 特に2曲を歌うエーミー・ホランドは『スカーフェイス』をきっかけに、その後『ナイト・オブ・ザ・コメット』('84)、『セント・エルモス・ファイアー』('85)、『ティーン・ウルフ』('86)でもその歌声を披露している。
 エリザベス・デイリーも『誘惑』('84)でもその歌声を聞かせていた。

 

 モロダーのプロデュースしたサウンドトラック・アルバムはMCAよりリリースされたが、当時から『スカーフェイス』関連のリリースはまるでコカインの粉が舞い散っているようだ
 デビー・ハリーの12インチ・リミックス、シングルは日本でもリリースされ、プロモーション・オンリーの12インチとして「PUSH IT TO THE LIMIT」のロング・ヴァージョン・リミックスがドイツとアメリカのMCAよりリリースされている。
 アメリカでは同じ曲のアルバム・ヴァージョンとのカップリングだが、ドイツでは「TONY'S THEME」とのカップリングだ。
 あの唸るギター・ソロがこの12インチで聴けるのだからこれは涙ものだ。

 
 
 これで終わりではない。
 作品自体がカルトとなった2008年から2009年にかけて『SCARFACE − THE GOSPEL ACORDINS TO TONY MONTANA』という2枚のピクチャー・ディスクのLPがリリース。
 この2枚は確かにブートレッグだが、トニーの各場面の名セリフをギッシリと収めたアルバム。
 マニアしか分からないような内容のLPだがこれはマスト・アイテムと言いきってしまおう!
 そして極めつけは『SCARFACE: THE WORLD IS YOURS』なるアルバム。
 これもオフィシャルでは無いが、MCAには未収録のモロダーのスコア(メイン・タイトル他)を収録の上、トニーの名セリフも収録した、まるで「SEY HELLO TO MY LITTLE FRIEND!」と叫びたくなるアルバムだ。
 
 
 
     
 
     
 
 ていうかおい!
 早くオフィシャルのスコア完全盤を出せ!!

 オリヴァー・ストーンは自作の音楽に独特の美学を貫いて来た。
 依頼した作曲家も意外にもフランスのジョルジュ・ドルリュースチュワート・コープランド(『ウォール街』('87)では当初ジェリー・ゴールドスミスを予定)、ジョン・ウィリアムス、日本の喜多朗等。
 『エニイ・ギブン・サンデー』では当初、『シェルタリング・スカイ』('87)、『季節の中で』('99)のリチャード・ホロウィッツにスコアを依頼。
 しかしレコーディングが全て終わった時点でストーンはほとんどのホロウィッツのスコアを破棄。
 元ザ・バンドのギタリスト、ロビー・ロバートソンが新たにスコアをレコーディングした上、ポール・ケリーも追加作曲してスコアを完成させた。
 さらにストーンは、ヒップ・ホップのミュージシャン達にも新曲を大量にレコーディングさせロック、ジャズなどのレコーデッド・ミュージックも大量に使用して、様々なジャンルの音楽のカレイドスコープを完成させたのだ。

 

  実はロビー・ロバートソンはザ・バンド時代、アル・パチーノ主演の『スケアクロウ』('73)のスコアを依頼された後降板した経緯があったが、今回ようやくパチーノ作品を担当。
 ロバートソンはマーティン・スコセッシとのコンビも多く『キング・オブ・コメディ』('83)、『ハスラー2』('86)、『カジノ』('95)が有名だ。
 このストーン作品では主演のパチーノのキャラクター同様、ブルージーな泣きのギター・サウンドを披露して時代に流された男の哀愁を聴かせている。
 また、出演のジェイミー・フォックスがその自身の才能を発揮して主題歌を自ら作詞作曲した上、歌っている。

 

 しかし最初にWARNER/SUNSETよりCDと2枚組のLPでリリースされたサウンドトラック・アルバムは、完全なヒップ・ホップ・ヴァージョンのインスパイア的なアルバムで、劇中ロクに聞こえないラップ、ヒップ・ホップの洪水だった。
 中でもコートニー・ラヴ姉御率いるホールの「BE A MAN」は聴きモノ。
 これで終わり…と思いきや、数ヵ月後意外にもVOL.IIがリリース。
 こちらはロバートソン、ホロウィッツ、ケリーのスコアは勿論、劇中の印象的なナンバーのエラ・フィッツジェラルドニーナ・シモンのジャズ・ヴォーカルから追加スコアのモービーの曲も収録しており、こちらが実質的に完全なサウンドトラック・アルバムの決定盤だった。
 特にロバートソンの劇中に使用された既製のナンバーも収録、さらにロバートソンの曲の上にパチーノの演説までも収録されており文句無し!

 
 
 
 

 さらに『エニイ・ギブン・サンデー』は非公式リリースもかなり豪華だ。
 ヒップ・ホップ・ナンバーの歌詞が、放送可能用にした「クリーン・ヴァージョン」なる3枚組・LPがプロモーション・オンリーとして全米のラジオ・ステーションに配布。
 あわせて出演もしている、LL・クール・J「SHUT'EM DOWN」のヴァージョン違いの6曲入りの12インチもプロモ・オンリーで配布。
 ドイツではLL・クール・Jとホールの曲でカップリングした最高のジャケット・デザインの12インチがリリース。
 さらにリチャード・ホロウィッツのレコーディングしたスコアの全40曲入りのCDが、これもプロモーション・オンリーとしてリリースされている。

 
 毎日曜日に試合を行う熱き男達を燃え上がらせるアルバムが、『エニイ・ギブン・サンデー』だ。